記憶が薄れていった時に 老婆が現われ また あの時の事を鮮明に思い出した あの時のような急な長い階段ではなかったが 僕が老婆と再び出会う事が出来たのは 長い年月をかけて階段を登りきったのだろう 人生という階段を・・・・・
あ ・・・ あの時の老婆だったのだ ハンカチを受け取ると 老婆はどこかに消えていた 見覚えのあるハンカチだった 見ると 血がついていた 10年の間 僕はあれから何処に行っても階段を使うようになっていた あの時の光景が頭の片隅から離れる事がなかったからだ
これは僕のではありません 覚えていませんか? 長い階段の事を あの時 あなたが落として行った ハンカチですよ 忘れ物を返そうとして ロープを何度か降ろしましたが あなたは二度とロープを使って 登って来なかったものですから
あれから 10年の月日が流れていた 長い階段のことすら 忘れていた頃の事だった 落し物ですよ 一人の老婆に声を掛けられた 振り向くとどこで会ったような気がした 何気なく受け取ってみたが 見覚えのないハンカチだった
ここで何があったのかは 誰にも言えないままだった あれから 何度かロープが降りてくるようになった しかし 僕はもうロープを 使うのを辞める事にした 長い階段は 跡形もなく 消えていた
緑の手をした人は また そのロープを伝って すぐに帰って行く けれど 3年間耐えた人は そう簡単には降りない その違いは大きいですよ?? 老婆は静かに言い終わると 去って行った 僕は 三日 ここに留まったが 結局 老婆の言った通り ロープを伝って 帰って行った
苦しさを 乗り越える時は 誰しも 血を流します あなたは 緑色の手をしている 何の苦労をしていない手だ すぐに 見破られて終わる ロープを使うと 苦労を知らない 登りきったところで はじめて 苦労を知る事になる
覗くと 驚きを隠せなかった 階段が 真っ赤に染まっていたからだ お分かりになられましたか? この階段を3年間かけて登れる人は 殆どいません けれど 階段を使った人は 血を流しながら3年間かけて 登ってきたのです
どんな事でも簡単に 登ると 必ず跡が付きます けれど 階段を上ってきた人には 跡は付きません 何故だかわかりますか? 黙っていると 簡単な事です 血ですよ 階段を見て御覧なさい
階段からです 老婆は静かに言った 嘘ですね? あなたは あのロープを使って 簡単に登って来たのでしょう 手を見て御覧なさい 手を見ると 緑色に変色していた 吃驚した顔をしていると あのロープには 魔法の粉が付いているのです
皆は ロープに繋がり 登り始めた 意外と簡単に登る事が出来た 登りきったところに 一人の老婆がいた 何処から来たのですか? 下からずっと登ってきました そうですか 階段を使うと三年はかかりますが どうやって登ってきたのですか?
長い階段 あるところに長い階段があった 一段一段登るには 余りにも過酷だった 誰も登りたがらない階段だった そこへ ある日 ロープがぶら下がって来た これを使えば すぐに登る事が出来る