【洗濯もゴミ出しもトイレットペーパーの補充も】 皆は家事が面倒だって言うけど、料理なんか勝手に食卓に出てくるし、食器も放置しとけば勝手に綺麗になるだろ。 と俺が話すと皆「それは家族がやってくれてるんだ」って怒る。 俺は独り身一人暮らしなのに。 #百字小説
【寝てばかりの休日】 「休日はいつも寝てばかりで終わってしまうんだ。たとえば海で波の音を聞きながら寝たり、キャンプで星空を見ながら寝たり、森の中でハンモックで寝たり、田舎にある祖父の家の縁側で寝たり……」 「充実してるな」 #百字小説
【日が沈む 海へと沈む】 日が海へ沈んでいく。 空が暗くなっていく。 ああ終わる。世界が終わる。 僕らの街を照らし、電力を生んでくれていた人工太陽。その命が今、終わっていく。海の底へ沈んでいく。少し遅れて僕らも終わる。 #百字小説
【「ここは俺の家だぞ」】 ボロ過ぎる俺の家を廃墟と思ったか、近所のガキ共が肝試しに来た。出てけコラと叱るも、おい無視か。いや、ひとりは俺を指さし「幽霊がいる!」と泣く。失礼な。そいつの頭上から再び説教を……あれ俺なんで浮いて #百字小説
【「あ~、糸切られた!」】 釣りをしていると釣竿を何かが引っ張り、魚でなくて竿自体が見えない手で上方向に引っ張られ、否よく見ると細い糸が竿にくっつき竿を上へ上へ引っ張っている。その糸を切ると空の方から悔しげな声がしたのだった。 #百字小説
【猫からこだま】 飼い猫がけほけほやっているので毛玉を吐くのかと思ったら、こだまを吐いた。「やっほー」という人の声が、猫の口から吐かれたのだ。 「やっほー」 「うわっ」 「ヤベ落ちる助け」 最後に、何かが潰れる音。 #百字小説
【雨の日には傘を開いて】 雨の予報に、慌てて傘を開く。 この町は常に水不足。貴重な雨水は全て濾過傘に注ぐのだ。 そういや昔は、傘を逆さにして……伏せたお椀みたいな状態で使っていたらしい。それでどうやって雨水を溜めるんだ? #百字小説
【腹からスイカの蔓が生え】 ある日俺の腹からスイカの蔓が生えてきた。種を飲むとスイカが生えるって本当だったんだ。 「いや待て、種も何も、俺今年スイカ食ってないぞ」 と呟くと腹の方から「間違えました」と声がし、蔓は引っ込んだ。 #百字小説
【台風コロッケ】 台風といえばコロッケだよな。 サクサクした衣にソースをかけ一口。 ホクホクのじゃがいもと、ゴウゴウ荒れ狂う風が、口の中を旨味で満たしていく。 うんうん、やっぱ台風はコロッケにするのが一番旨い。 #百字小説
【暑くなくなった夏】 今年の夏は特に暑いなと思っていたが、やっと暑さが和らいできた。冷たい風が吹き、まだ夏は終わってないのに雪が降り、海が凍っていき、テレビは氷河期の到来を告げ、あの暑さを思い返しながら俺達は凍えていく。 #百字小説
【肝試しの結果】 僕は友達と、心霊スポットへ肝試しに行った。あそこへ行くと霊に体を乗っ取られる……なんて噂だったけど、まぁ噂は噂。不気味な雰囲気の所ではあったけれど、特に何か起こるでもなく無事に、俺と友人は帰宅した。 #百字小説
【シーなんとかと言ったから】 友人は海岸でシーグラスを探していたのだ、と気付いたのは、ガラス瓶で彼を殴り殺した後だった。だって海岸を歩きながら「シー……」とか言うから、てっきり海に遺棄した僕の元カノのシーナが探されているのかと。 #百字小説
【スイカとメロン】 スイカの種を飲み込んだら腹からスイカが生えてきて。これは好きな子に告白するチャンスだ! と思って。彼女、スイカが好物だからさ。そしたらなんと、彼女の腹からはメロンが。 俺、メロンが……苦手で……。 #百字小説
【楽しい楽しい夕飯作り】 昨日は家族皆で夕飯を作りました。とっても楽しかったです。 弟がご飯を炊いて私がサラダを、ママが味噌汁を作りました。そして、パパと、えーとウワキアイテさんって名前の人が一緒にハンバーグになりました。 #百字小説
【ファイル名:タイトルは後で考える】 「なんか忘れてる気がするんだよな」 と呟いたのは、たった今執筆を終えた小説家。〆切は既に過ぎ、編集部が待ってくれるマジのガチのギリのタイミングでやっと書き終えた訳だが、やはりなんか忘れているような。 #百字小説
【『ただ君に、これを伝えたかっただけなんだ』】 博士が友人に頼まれ発明したのは、死者の声を文書に変える心霊タイプライター。 発明品完成直後、友人は自殺。 何故、と嘆く博士の前で発明品が動き出し、文字が現れる。 『これが本当のゴーストライター』 #百字小説
【交通事故の防止策】 ボールを追いかけ道路に飛び出した子供が車にひかれ亡くなる、そんな悲しい事故が起きた。 再発防止策が検討され、結果、様々な物が規制された。 具体的には、ボール遊び、車の運転、そして子供の存在自体。 #百字小説
【まな板の鯉】 まな板の鯉、という言葉があるが俺の買ってきた鯉はまるで死に抗うようにまな板でビッチビッチ跳ね続けている。なんか怖くなって寝室に逃げ、一晩放置した。まだ跳ねている。一週間放置。一ヶ月。まだ跳ねている。 #百字小説
【整理整頓の得意な助手】 私は探偵。彼は助手、事務所の掃除や整理整頓が得意な働き者。 で、これは本棚。バラバラな順番で並んだ本が実はダイイングメッセージを表していた、筈だったが何者かが本の並びを整理整頓し直しちゃった本棚。 #百字小説
【乾燥機】 新しい乾燥機を購入し、いざ使ってみると全っ然服が乾かない。使い方が間違っているのか、不良品なのか。メーカーに電話するかとスマホを取り出すと、画面に表示されたネットニュース。 全世界が急激に乾燥化? #百字小説
【魔王の企み】 「魔王よ、何故お前は世界を支配しようとする」 「教えてやろう勇者よ。我は全世界を我の私有地とし、車の運転をするのだ」 「くるま」 「免許試験に落ち続け幾年。そこへ私有地なら免許不要と聞き」 「やめな」 #百字小説
【重い瞼】 近頃夜更かしばかりしていたせいか、やたら眠くて瞼が重い。本当に瞼が重い。一分一秒経つ毎にずんずん瞼は重くなり、やがて重力に耐えきれず、俺の顔からぶちりと千切れ地面へ落下。そのまま地中へ沈んでいった。 #百字小説
【寒暖差と引っ越し先】 最近、寒暖差が激しくなったように思う。昼と夜で気温が随分と違う。というのを嫁や孫に話しても「引っ越したからよ」「前の家とは違うんだよ」とよくわからん理屈で流される。俺は腕を組み窓の外の地球を眺める。 #百字小説
【AI疑惑】 「あいつ、どうも悩んでるみたいで。絵の事で。『自分の手で描いた絵なのに、それAIが描いただろ、と言われる』って。どうしましょう。あいつに、お前はアンドロイドなんだよって伝えるべきなんでしょうか、博士」 #百字小説
【机に花】 学校の教室。ある生徒の机に、花が置かれている。菊だ。その生徒は目の前の花を掴み。 口に運ぶ。 多様性の時代。今時の学校には人外だって通っている。あれは花を食べるタイプの人外。菊が一番好きらしい。 #百字小説
【親父のアルバム】 カメラ好きの親父が他界し、遺品整理中、見つけたアルバム。俺や母の写真ばかり並ぶページを捲る。最後のページで手が止まる。そこにあったのは、喪服の俺と母を上空から撮った写真。まったく、最期までこの人は。 #百字小説
【カサの増えた川】 「雨続きで川のカサが増えていますから絶対に近付かないでください」 と先生が言うので気になって、僕は川を見に行った。 本当だ。川面をたくさんの、カサやカッパが流れてく。あれは今日休んだ健くんのカサ? #百字小説
【自炊と弁当】 自炊するのが面倒で、いつも弁当を狩っている。今日は狙っていた唐揚げ弁当を見事に仕留める事ができた。新調した弓矢が良い働きをしてくれたのだ。え、狩りする元気があるなら自炊しろ? いやぁそれとこれとは。 #百字小説