日比野は退屈した。無性に皿を洗いたい。普段バイトでしているからだ。 実家には手練れの母がいる。調理器具は料理の間にさっと洗われ、つけ置きの皿はいつの間にか姿を消す。 ライバルは父ではなく母だ、俺に皿洗いをさせろ!! 睨みつけてくる息子を見て、母は「まだまだね」と言いニヤリとした。
日比野には逃げ場がなかった。帰省のために乗った高速深夜バス。 隣の男が肩にもたれてきて、いびきをかきはじめた。前の座席からはヘッドフォンの音漏れ、後ろのカップルはイチャついていた。 「俺はもう星空に帰省する!」 窓から飛び立とうとした…が数cmしか開かない。夜風もうるさく生暖かい
日比野は悲しくなった。祭囃子の練習が聞こえなくなった。途端、秋の気配を感じるのは何故だろう。四季は俺の外側にではなく内側にあるのではないか…… 天気予報も気象図も無意味に思え「俺の夏は終わらないっ!」とタンクトップ1枚で外に飛び出した! 確かに、雲が夕立を降らす準備を始めていた。
日比野は地団駄を踏んだ! ボールを蹴ったらあさっての方向へ飛んで行った。サッカー少年たちがニヤニヤしてる。バカにされていることだろう。 二度と人助けなどするまい……心に誓った。 公園を出ると道に人だかりが出来ていた。ボールがひったくり犯の頭部を直撃したらしい。 日比野は頭を抱えた
日比野は苦しんでいた。あせもの痒みに。 遠い言い伝えに聞いた。あせもには桃の葉を煎じた水薬が効くと。しかしどのようにして手に入れたら良いか。 俺には文明の利器がある。Google先生に聞けば、桃の原産地は中国西北部高山地帯らしい。 彼は渡航費を稼ぐために汗水流した。 そうしたら…
日比野は耳を疑った。大学の友人らがこう言ったのだ。「海でパリピしようぜ!」 パリピとは属性を示す名詞ではないのか? 「属性+する」は成立するのか? 「イケメンする」や「右翼する」もアリなのか? だとしたら……俺にもパリピできるのかぁ!? 友人らは思った。(コイツには無理だな)