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【劇評236】仁左衛門、玉三郎。『四谷怪談』は、観客を地獄へ連れて行く

 急に秋雨前線が停滞して、底冷えのする天気となった。怪談狂言を観るには、いささか寒すぎるせいか、四世南北の描いた冷酷な世界が身に染みた。

 今年の歌舞伎座は、仁左衛門、玉三郎の舞台姿が記憶されることになるだろう。
 玉三郎に限って言えば、二月の『於染久松色読販』、三月の舞踊二題『雪』、『鐘ヶ岬』、四月、六月の『桜姫東文章』上下、そして今月の『東海道四谷怪談』と舞踊を交えつつも、孝玉の真髄を味わうことができた。
 かつての孝夫、玉三郎時代の淫蕩な舞台を思い出す古老もいえれば、現在の感覚で歌舞伎を読み直す若手観客も劇場に詰めかけた。

 さて、今月の『東海道四谷怪談』は、「浪宅」「喜兵衛内」「浪宅」「隠亡堀」と、限られた時間のなかで、南北の世界を通している。

 玉三郎がお岩様の怨霊となっていく過程を丁寧に演じ、仁左衛門が冷徹な悪党民谷伊右衛門を「おおらかに」演じている。
 
 まずは、「伊右衛門浪宅の場」から。道具に徹底した汚しが入って、陰惨きわまりないのだが、反面、伊右衛門と宅悦のやりとりがあっさりしている。

 内職の傘張りをする仁左衛門のあたりがぽっと明るく、松之助の宅悦にもあくどい心持ちが薄い。
 このあたり、観客を油断させて、ついには地獄へと引き込んでいくのが、今回の上演の狙いなのだろう。


 橋之助の小仏小平に、まっすぐな気性が見える。歌女之丞のおまきは、複雑な陰影を隠している。
 伊藤家からくだされものを受け取る玉三郎の「ありがとう存じまする」が慇懃で、武士の娘の性根がくっきりと見える。この件り、ゆったりとした台詞回しで、舞台を牽引していく。堂々たるお岩役者である。

 伊右衛門が家を出た後、ひとりでしんみりとした述懐を聞かせる。母の形見の櫛の行く末を思うあたりに、隠亡堀とつながる伏線もしいておく。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。