【劇評家の仕事1】 野田秀樹の『正三角関係』を観る前に、『カラマーゾフの兄弟』を読むべきか。くやしいので私は読みます。「正三角関係」のトリプルミーニングについて。
劇場に行く前に、戯曲を読むかどうか。
これはなかなかむずかしい選択です。
もっとも、シェイクスピアやチェーホフのような古典は、すでに戯曲を読んでいますし、異なる演出家の上演を何度も観ています。また、たとえば、新訳による上演であっても、ことさら事前に戯曲を読むようなことはまず、ありません。
ならば、新作の場合はどうか。『悲劇喜劇』のような演劇雑誌に掲載されていても、丹念に読んだりすることは、今までしてきませんでした。英・ガーディアンのマイケル・ビリントンの劇評集のタイトルは「ワン・ナイト・スタンド」です。一夜限りの出会いに賭けるのが、劇評家の仕事のように思えます。
もちろん、例外はあります。400字詰め原稿用紙10枚以上の劇評を依頼されていて、しかも、初日と締め切りが近接している場合。たとえば、初日に観て、翌々日入稿し、その翌日には校了、というようなアクロバットが決まっている場合は、可能な限り、事前に戯曲を読むようにしています。
では、上演される劇作に原作がある場合とどうするか。 これについても、時間の許す限り、読むようにしています。
なぜこんな話を始めたかというと、七月十一日から上演される野田秀樹の新作『正三角関係』が、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』を原作としていると、野田自身から発表になったからです。
年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。