見出し画像

【劇評197】玉三郎が上代の神秘をまとって歌舞伎座に帰ってきた。

 玉三郎が帰ってきた。
 十二月大歌舞伎第四部『日本振袖始』は、初日から七日まで、菊之助の岩長姫実は八岐大蛇、彦三郎の素戔嗚尊、梅枝の稲田姫の代役でまですぐれた舞台を見せていた。
 八日の休演日をはさんで、玉三郎の岩長姫、菊之助の素戔嗚尊、梅枝の稲田姫という本来の配役で、ふたたび幕を開けた。

 九日の舞台を観て思った。
この『日本振袖始』は、源頼光や安倍晴明が登場する平安時代の怪異譚ではない。
 時は上代、文字や仏教思想が到来する前の混沌たる日本の物語なのだと思った。ここには、超自然的な力が大地をうねっていた時代の日本が描きだされている。

 こうした舞台となったのは理由がある。
  まず、玉三郎の岩長姫実は八岐大蛇が妖気によって貫かれていたこと。八つの甕の毒酒に溺れ、花道に倒れ、意識を失うまでに心身を虚脱させるときの凄み。稲田姫を身中に呑み込んで消えるときの怪異。
 こうした法や智では、飼い慣らすことのできない存在をあらわにした。

ここから先は

435字
この記事のみ ¥ 100

年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。