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長谷部浩の俳優論。

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歌舞伎は、その成り立ちからして俳優論に傾きますが、これからは現代演劇でも、演出論や戯曲論にくわえて、俳優についても語ってみようと思っています。
劇作家よりも演出家よりも、俳優に興味のある方へ。
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2022年2月の記事一覧

深津絵里の深くて暗い川。『カムカムエヴリバディ』と野田秀樹作品をめぐって

深津絵里の深くて暗い川。『カムカムエヴリバディ』と野田秀樹作品をめぐって

 深津絵里を観ていて飽きない。

 連続テレビ小説の『カムカムエヴリバディ』で、大月るい役を演じている。幸福とはいいがたい育ち方をしたるいが、クリーニング店に住み込みで働くうちに、ジャズマン(オダギリジョー)と出会う。ミュージシャンの夢が破れてからは、ひとりで回転焼きの小さな店を切り盛りして、一女一男を育てるうちに、確かな生活を手にしていく。ざっといってしまえば、そんな役なのだが、だれもから可愛が

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【劇評249】仁左衛門の知盛。一世一代の哀しみ。

【劇評249】仁左衛門の知盛。一世一代の哀しみ。

 仁左衛門が一世一代で『義経千本桜』の「渡海屋」「大物浦」を勤めた。

 確か、仁左衛門は、『絵本合法衢』と『女殺油地獄』も、これきりで生涯演じないとする「一世一代」として上演している。まだまだ惜しいと思うが、役者にしかわからない辛さ、苦しさもあるのだろう。余力を残して、精一杯の舞台を観客の記憶に刻みたい、そんな思いが伝わってきた。

 さて、二月大歌舞伎、第二部は、『春調娘七草』で幕を開けた。梅

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