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長谷部浩のノート お芝居と劇評とその周辺

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2020年1月の記事一覧

【劇評162】『メアリー・スチュアート』絶対的な孤独。☆★★★★

 国王ではない。女王の物語である。  フリードリッヒ・シラー作の『メアリー・スチュアート』(森新太郎演出)は、宮廷の権力がいかに移ろいやすく、儚いものかを描いている。  スティーブン・スペンダーによる上演台本は、メアリー・スチュアート(長谷川京子)とエリザベス一世(シルビア・グラブ)を軸にすえて、彼女たちをめぐる宮廷の貴族たちの忠誠と変節を嘲笑している。  ハンサムなレスター伯は、ふたりの愛を弄んでいるかにみえて、決して何も手に入れることが出来ない。  陰謀家のバーリー

菊之助の『義経千本桜』の通し。知盛、権太、忠信。どれを観る? すべて観る?

『義経千本桜』の通しと聞くと、忘れられない想い出があります。  二○○一年に、中村勘三郎(当時、勘九郎)が隅川河畔で上演した『義経千本桜』と浅草がふっとわきあがてきます。。  この古典歌舞伎の代表的な狂言を、勘三郎は、平成中村座で、知盛編(渡海屋、奥座敷、大物浦)、権太編(椎の木、小金吾討死、鮨屋)、忠信編(道行、川連法眼館)の三部に分け、交互上演しました。  知盛、権太、忠信は、歌舞伎でいう「仁」に隔たりがあり、ひとりの俳優が演じ分けるのは困難であると考えられていたの

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知盛、権太、忠信の三役を菊之助が。

今日、国立劇場から封書が届く。3月国立劇場小劇場は、『義経千本桜』の通し。菊之助が、三役を勤めるとのこと。詳しくは、以下のリンクへ。 https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/kokuritsu_s/2019/23125.html

続報。『風の谷のナウシカ』収録日について

 1月16日に、『風の谷のナウシカ』を映画館で観るべきかと題して投稿しました。 そのなかで、私は以下のように書きました。  私が新橋演舞場で観た日は、菊之助さんが事故に遭われた直後でしたので、演出の変更がありました。この映像の収録日によっては、フライングなどの演出が観られる可能性もあるので、発表を心待ちにしています。私なりに、関係の方々に聞いてみようかと思っています。  関係者に問い合わせたところ、収録日がわかりました。

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『風の谷のナウシカ』を映画館で観るべきか。

みなさんご存知だと思いますが、『風の谷のナウシカ』が、全国の映画館で、ディレイビューイングとして上演されると聞きました。 私が新橋演舞場で観た日は、菊之助さんが事故に遭われた直後でしたので、演出の変更がありました。この映像の収録日によっては、フライングなどの演出が観られる可能性もあるので、発表を心待ちにしています。私なりに、関係の方々に聞いてみようかと思っています。 シネマ歌舞伎はごらんになった方も多いと思います。 映像でしか捉えられない場面もあるかと思います。 また、原

演出家が考えなかったことを文章にするために。

 批評家という職業を選んで私はたくさんの喜びを得ました。  みなさんも気がついていると思いますが、本当にすぐれた舞台は、一年に二本か三本しかありません。  かなり甘い評価をしても五本を超える年はなかなかありません。その舞台に接する喜びのために、夜の大切な時間を費やすべきか。ひとりひとりの判断が尊重されるべきだと思います。  数少ない体験ですが、私も作る側に回ったことがあります。公演が終わった後に、他の批評家から欠点を指摘されることがありました。すると、「ああ、そんなこと

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観劇中にメモをとるべきか。

 二十代の私が心がけていた方法をお教えします。たくさん書いて、削る。これだけです。  12枚の原稿を依頼されたら、20枚は書く。そして、削る。  推敲の時間をできるだけ取る。  簡単なことですが、辛抱強く続けるのはなかなか困難です。  それには、時間とエネルギーが必要です。  ただ、若かったので苦にはならなかった。寝ないで仕事をするのは、あたりまえだと思っていましたし、土曜日や日曜日は、大切な執筆の時間で、休みではありませんでした。  みなさんは、舞台を観ながらno

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図像学が私の選択した方法でした。

 私の方法についてお話しします。  私のキャリアは現代演劇の批評からはじまりました。1982年ごろの話です。まず、考えたのは、すでにいる評論家と似てはいけないという原則でした。  当時、第一人者と思われていたのは、朝日新聞の記者で評論家でもあった扇田昭彦さんです。アンダーグラウンド演劇、最高の擁護者、批評家と思われていました。  何か舞台を観たとします。まず、扇田さんだったらどんな視点で書くかを考えます。それがどんなにすばらしいアイデアだったとしても、私はその視点を捨て

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私が演劇評論家になった理由。

 なぜ、演劇の評論を書くようになったのですかと聞かれることがあります。  中学三年生の夏だったと思います。東京には古本屋街として有名な神保町があります。出版社や印刷所もこのエリアに集まっています。なにか参考書を探しに行ったのだと思いますが、ふっとあるビルディングを見上げたときに、私はこの会社で編集者になる。そして、演劇評論家になるのだと、インスピレーションが下りてきたのです。  もちろん、子どものころから本が好きでした。  両親も理解がありましたから、近所の本屋で私は文

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外国の大学で、シラバスを自分でウェッブ登録する困難。

 ウィーン大学では、来学期、夏のセメスターの準備が進んでいます。  昨年の十二月の中旬に求められていたのは、スケジュールと教室の予約です。  教室の都合によっては、日程を考えなおさなければいけません。  私の場合は、数あるセミナールームで、しかも土曜日が中心の集中講義ですから、特に問題がないと思っていました。  ところが、最終日の時間帯の調整がつかず、スタートが、遅くなり15時半に始まり21時半に終わる予定になりました。  日本の大学の通例としては、学部二年生の講義が、

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勘九郎と七之助は、大きな壁をよく意識していた。☆☆★★★

 新春大歌舞伎夜の部、ここでも白鸚がすばらしい芝居を見せています。 『義経腰越状 五斗三番叟』は、頻繁に出る演目ではありません。ですが、亀井六郎(猿之助)が、義経(芝翫)を諫める件り。  そして、目貫師の五斗兵衛(白鸚)が、錦戸太郎(錦吾)伊達次郎(男女蔵)に酔い潰される件り。  竹田奴を相手に、正気にもどった五斗兵衛が三番叟の舞を見せる件りとヴァラエティに富んでいます。  なにより白鸚の酔いっぷりが自在です。 『棒しばり』は、ふたりがたっぷりと酒蔵で酒をくらって酔ってい

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【劇評161】白鸚、吉右衛門。藝の到達点とは。☆★★★★

 まさか「桜を見る会」の諷刺なのか?  見どころにあふれるミドリの公演で、ゆったりと観た。  朝いちばんの朝幕は、『醍醐の花見』(中内蝶二作 今井豊茂台本)。幕外のやりとりが終わると幕を振り落とす。  季節は違えど、桜の花は、歌舞伎の美の原点にある。  梅玉の秀吉、福助の淀君、勘九郞の三成、七之助の北の方、芝翫の智仁親王、魁春の北政所が、盛大に花見を愉しむおおらかなな一幕。昨今世情を騒がせている権力者の「桜をみる会」を、まさか下敷きにはしていないだろうと思うが、諷刺ならば

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【劇評160】復活狂言の佳品。菊之助が虚実の皮膜を生きる。  ☆☆★★★

 邪気のない愉しさ 菊五郎劇団の正月は、邪気のない愉しさにあふれています。  国立劇場は、妙に繭玉が似合う劇場でもあります。樽酒が積まれた正面玄関を入ると、おめでたい気分になります。戦争なんぞにならず、楽しく暮らせればいいのにと、切ない願いで一杯になります。  今年の復活狂言は、『菊一座令和仇討(きくいちざれいわのあだうち)』と題されています。四世南北作の『御国入曾我中村』を原作としています。   復活といっても、かつての上演台本そのままを上演するのではありません。大胆な

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2020年、長谷部浩の劇評は、星を打ちます。

 新年から新しい試みを始めます  今後は、劇評を掲載するたびに、星を打とうと思っています。五つ星が満点です。  英国の新聞では、評価の基準として、五つ星から一つ星までが劇評とともに、紙面に載っています。  劇場の看板には、こうした劇評の一部が紹介されるとともに、星の数が添えられています。英国では批評と星が文化として根付いています。  ならば、日本はどうでしょうか。演劇界の古老にも伺ったのですが、シリアスな批評に星が打たれたのは記憶にないとのことでした。 映画の場合

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