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『夜の歌』感想
「音楽×小説」と聴くと、これまで読んだ音楽ものの小説がいくつも思い浮かぶのに、記事を書こうとして真っ先に脳内から降りた言葉が
「歌はいいね・・・・・・、歌は心を潤してくれる。リリンの生み出した文化の極み(以下略)」というエヴァンゲリオンで美少年キャラとして有名な渚カヲルきゅんの(←きゅん言うな)セリフでした。さて、どういうことなのでしょうか。このセリフには「音楽」なんて言葉はひとつも入っていないうえに、小説ではなくアニメです。もうひとつ言えば、私は確かにエヴァンゲリオンのなかではカヲルくんを推しますが、特別なファンというわけでもない。それなのに、よりによってなぜ、このセリフを出したがるのでしょうか。思いついたとしても、なぜそれを胸のうちにしまっておけないのでしょうか。まったく罪深いアニメです。そういえば劇場版の完結編をいまだに観ていな(前置き終了
(※前置きは以下本文とは何の関係もありません・・・)←何回やるねん
『夜の歌』感想
著者:藍川澪 さま
『ノクターン』の作者さまの最新刊『夜の歌』を文フリ大阪にてゲット!
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しかも人物相関図つき!
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マジックアワーの空が美しいです
『夜の歌』には「名前をつけるな」、「Interlude」、「聖夜の彼女」の3編が収録されています。この3編はそれぞれ登場人物がつながっている連作集です。
そのなかでも「名前をつけるな」「Interlude」の主人公・夏樹は、『ノクターン』収録作品の「夏の山」主人公とのことで、あらためて「夏の山」を読み返してみました。
「夏の山」
高校生の吹奏楽部合宿のお話です。
8ページと短いながら、夏樹の性格や葛藤がよく表れていています。
前半、「夏樹」が男の子なのか、女の子なのか? わからなかったんですが(それも作者さまの狙いなのでしょう)、それくらい中性的なところが魅力あふれる主人公。かっこいいのに、本人には本人の葛藤があるんだな、というのがよくわかるラストシーン。
「名前をつけるな」では、その葛藤をテーマにしているように感じました。
「名前をつけるな」
「夏の山」では高校生だった夏樹が、大学生となりインカレオーケストラ部に所属。変わらずにトランペットを担当しています。
私は楽器といえばピアノを個人で弾いたことしかないので、オーケストラの練習風景が細かく描かれているのが興味深かったです。人と合わせて演奏しないといけないって大変そうですが、どれだけ上手く合わせられるかが大切なんだろうし、きれいに調和がとれた演奏ができたら気持ちいいんだろうなぁ、とテレビで観るオーケストラの方々の姿を思い出しながら読みました。ふだん、特に社会人になってからというもの、音楽と縁遠い生活をしているので、音楽の世界に触れられたのが楽しかったです。
そして、夏樹がかっこよかった!
昭和にくらべると今の時代は男女の垣根(区別)が薄くなったようには思うものの、まだまだ世の中には「男はそういうもの」「女はそういうもの」そして「男女はそういうもの」という風潮が根付いていて、まわりもそれを当たり前に受け入れがちだったりします。そして、女が十人集まれば井戸端会議がはじまり派閥ができ、人と人との関係を憶測で決めつけ・・・、となってしまうなかで、夏樹が孤高に自分を保っている姿は応援したくなりました。若いのに流されないってすごいぞ!
「Interlude」
とあるカフェ、社会人になった夏樹が訪れるカフェでの一幕。
次の「聖夜の彼女」につながる掌編なのですが、私もこういうBGMのカフェ好き! 行ってみたい! そして夏樹と心桜をこっそり遠くから眺めてみたい。(いや、挨拶しなさいよ)
「Interlude」って間奏って意味なんですよね。この掌編をはさんで主人公が変わる、という本の構成がいいなあと思いました。
「聖夜の彼女」
はい。好きなお話です(いきなり告白)
大学室内楽サークルの同級生、心桜と美都がともに過ごした数日間が描かれています。しっかり者の心桜と、おっとりとしたお嬢様の美都の組み合わせが可愛くて微笑ましくて、それゆえに結末は余韻が残ります。
学生のあいだの女の子同士というのは時として恋人よりも親密、というか女友達がいれば恋人なんていらない、むしろ女友達が恋人のような存在、もはや恋人だと公言したりしなかったりするのだけど、大人になって社会に出て環境が変わっていくにつれ、しだいに疎遠になったりすれちがったりして、「あの頃」には戻れないんだなぁと実感したりして(なんせ春谷は中高大学と女子校育ちのため、10代は男子生徒という生態と一切接触せず、世界には女子しかいなかった)。
当時は女友達が離れていくのを寂しく感じたものでしたが、もうアラフォーとなった今では当時の感情がまったく思い出せなくてですね・・・・・・、もはや小説の世界でしか味わえない感情となりつつあるのですが(老化ですか?)
そんな精神年齢老いた私ですが、若い頃には確かにこんな感情があったなあ、と読後に甘酸っぱい気持ちをよみがえらせてもらいました。
女の子二人ともが相手を思いやっているのが伝わる優しいお話で、まさに「聖夜」のイメージがぴったりでした。
『ノクターン』同様、すらすらと頭に入ってくるわかりやすい文章で、感情移入もしやすくて、そして美しい気分にさせてもらえる読書体験でした!
そして今、思いついた・・・・・・クラシック音楽を聴きながら読めばよかった!!(気づくの遅い)