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「200字の書評」(314) 2022.3.10
お早うございます。
三寒四温とは、言い得て妙です。暖気と寒気が入れ代わり立ち代わりやってきて、気温はまるでシーソーのようです。花粉の乱舞も始まりました。
この頃、朝が非常に憂鬱です。ウクライナ情勢がその原因です。テレビ新聞で伝えられる北の国の惨状に心は千々に乱れます。地下壕に身を寄せ、恐怖と寒さに震える人々。破壊された街並み。砲声におびえながら、蹌踉と隣国に逃れようと歩を進める一家。ようやく国境を越えて、ホッとした表情の親子には今後の不安がよぎる。戦地に残してきた夫、兄弟への思いがこみ上げている。ロシアでは極端な報道統制とデモ規制。何もしてあげられないもどかしさに、やりきれない思いです。
このところ、いくつかの論評や歴史の断片から、今回の事態の背景が少しわかってきました。プーチンという特異な人物に率いられ軍事力信仰に凝り固まった、ロシアの暴挙であることは明白です。同時に同根のスラブ民族であるロシアと、ウクライナの間にある微妙な感情の行き違いにも目をやる必要がありそうです。不確かな記憶ですが、昔レーニンは「大ロシア人の民族的誇りについて」という論文で、民族問題には慎重であるべきと論じていたように思います。他者にはわからない文化的歴史的な意識の違い、生活感や習慣上の違いがあるのでしょうか。加えて、先の大戦におけるナチスとの死闘、さらに戦後の米ソ冷戦とソ連の崩壊、NATO拡大、アメリカの思惑などなど、私共庶民にはわかりにくい暗闘と駆け引きがあったのでしょう。善悪二元論では割り切れないのかもしれません。
いずれにしても、一般市民の苦難は見過ごせません。原発への攻撃や避難民銃撃など肝を冷やします。真偽定めがたい情報も飛び交い、報道に惑わされそうです。戦争を煽るのではなく、有力国は模様眺めをせずに、平和への仲立ちをしてほしいものです。我が国も軍備強化や核武装を唱えたり、無批判にアメリカに追従するのではなく、被爆国としての国際的責務を果たすべきです。
さて、今回の書評は皮肉にも、「敗北を抱きしめて」で瞠目したジョン・ダワーを丁度手にした同時期にロシアの侵略が始まりました。過去から現代を照射する歴史家の目には、何が見えているのでしょう。
ジョン・W. ダワー「戦争の文化 パールハーバー・ヒロシマ・9.11.イラク(上)」岩波書店 2021年
真珠湾攻撃の日本と、イラクとアフガニスタンで戦争を始めたアメリカの共通点を、著者は抉り出す。相手の心性を理解せず、統治計画をもっていなかった。それは自画自賛から来る傲慢さの故であると。人種差別意識と宗教的硬直性、相手の文化への軽侮もある。ドイツと日本への都市爆撃・原爆投下は民衆虐殺であり、テロと同様であると断ずる。戦後史を辿る著者は、為政者・軍人の短絡的で反道徳的な思考に厳格な目を注いでいる。
【弥生雑感】
▼ 高麗川沿いのビオトープには春の雰囲気に満ちています。カメラや双眼鏡を抱えたバードウォッチングの人びとが、川面と梢に目を凝らしていました。木陰のベンチでは、将棋盤に向き合って2,3組の名人たちが火花を散らしています。遠くには富士山が霞んで見えます。春の喜びが、世界中すべての人にいきわたることを願うばかりです。
▼ 77年前の3月10日、東京の下町は炎に包まれていました。米軍の焼夷弾による大空襲です。5年前に92歳で別な世界に逝った母は空襲経験者で、生前「戦争はもう沢山だ」「○○ちゃんはどうしたろう」などとアベをはじめ政治家の無責任な発言に憤り、消息のしれない友のことをよく語っていました。
<今週の本棚>
武田砂鉄「TBSラジオ公式読本」リトルモア 2021年
前にも言ったかもしれないが、ラジオが好きです。子どもの頃雑音交じりの真空管ラジオで笛吹童子、紅孔雀などを聴いていたこと、尋ね人の時間、航行情報など戦後を色濃く残した番組があったこと。受験時代の深夜ラジオでは受験番組の傍ら、少し大人びた番組に胸をときめかしたことなどを思い出します。今、テンションだけが妙に高ぶったテレビよりも、机に向かいつつ聴くラジオは読書の友です。
今野敏「神々の遺品」文春文庫 2002年
「土偶を読む」に触発されてしまいました。遮光器土偶は宇宙人の姿ではないかと想像していた。そこでオーパーツという言葉を思い起こし、本棚の奥からこの本を探し出して読みふけってしまいました。考古学の常識では、その時代にそぐわない出土品をオーパーツという。超古代文明であったり、宇宙人の仕事ではないかと。お馴染みのムー大陸とか、ロズウェル事件とかを描き込み、今野はさすがに引き込むうまさです。
コロナ禍は未だ楽観できません。死者は少なからず、軽症者の後遺症も深刻です。ワクチンの3回目接種、少しづつ進んでいます。早く顔を合わせて、楽しく語り合いたいものです。どうぞお気をつけてお過ごしください。