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「200字の書評」(295) 2021.5.25



こんにちは。
朝から青空、さんさんと初夏の日差しです。

梅雨のような鬱陶しい1週間でした。洗濯物干しと布団干しができず、爽やかで無い5月です。鬱陶しさはコロナ敗戦の根深さと、五輪強行の不条理にもありそうです。ワクチン接種が始まりました。初期段階での紆余曲折があるのは仕方ありません。市町村に丸投げで、政治的思惑から「早く早く」と急き立てられても、現場には現場の事情があります。五輪五輪と騒いでるうちに、一銭五厘の赤紙が復活する時代が来るのかも。

さて、今回の書評は専門分野を異にする二人の研究者の手紙のやり取りを取り上げました。




赤坂憲雄/藤原辰史「言葉をもみほぐす」岩波書店 2021年

研究者同士の往復書簡は、重なるほどに本音と深みが出て論点が明確になる。赤坂は福島での体験から、災害後を生きているのではなく、近い将来発生する災害の間つまり「災間の時代」を生きていると、時代認識を提示する。学術会議任命拒否にも話は及び、藤原は経済至上主義が人間の内面統治にまで及んでいるとするW・ブラウンの著を引いて危機感を語る。東北の地に秘められた被征服の歴史と、現代に連なる中央への思いを知る。




【皐月雑感】


▼ もうすぐ後期高齢者になる私にもワクチン接種の通知が届きました。巷では一日でも早くと人々が予約窓口に殺到する。電話はつながらず、パソコン・スマホはフリーズ。子や孫が老親のために、ひたすらキーを叩き続ける。お粗末な仕組みの、ただ一つの美景だと思うのは皮肉だろうか。私はかかりつけの病院で接種しようと思うので、パソコンに向かうのは6月になるのだろうか。


▼ 散歩の道すがら満々と水が湛えられた田んぼで進む田植えをを見るにつけ、衰えたとはいえ瑞穂の国なのだと実感します。この国に憧れて来日した外国人が不幸な終末を迎えるのは、何ともやり切れません。入管の非人道的な扱いは国の恥であり、思いやりと美徳を欠き人の道を外れています。入管法改正法案を廃案にしたのは、あまりにも当然です。難民認定を始め、人権意識を確立すべきです。情理を尽くした政治を望みます。論語の一節に「葉公問政。子曰、近者説、遠者来。」と。要路にある方に味わってほしい言葉です。


▼ 人の道という点では、ミャンマーやガザでの虐殺とでもいうべき事態を憂慮しています。圧倒的武力を備えた強者が、竹やり程度しか持たぬ民を攻める無慈悲を何といえばいいのでしょう。国際社会の声のか細いこと。




<今週の本棚>


鷲田清一「岐路の前にいる君たちに ~鷲田清一 式辞集」朝日出版社 2019年

大阪大学、京都市立芸術大学で学長を務めた哲学者。入学式卒業式で学生に語り掛けた式辞集である。こんな学長だったら、学生時代にもっと勉強したのに、と思う昔の不良学生でした。


平山三郎「実歴阿房列車先生」中公文庫 2018年

無類の鉄道ファンであり、偏屈極まりない百閒先生の秘書代わりに、すべての阿房列車に同行したヒマラヤ山系こと著者が語る百閒の素顔。平山は百閒を敬愛し、百閒は平山を息子同様に遇した。


仁平典宏「<災間>の思考」(小熊英二/赤坂憲雄編著「『辺境』からはじまる」明石書店 2012年 所収)

書評での「災間の時代」を深めるつもりで、この部分とその他をつまみ食いしました。戦後がいつまでも戦後であるとは限らないように、次の災害がいつ来るかは分かりません。


辻真先「二十面相 暁に死す」光文社 2021年

小中学生のころ夢中で読んだのが「怪人二十面相シリーズ」。名探偵明智小五郎と小林少年率いる少年探偵団が、稀代の怪盗二十面相と知恵比べをする。自分が探偵団になったつもりで、胸をときめかせたものでした。乱歩の後を辻真先が描くそれの展開は如何に。昔に帰ってお読みください。




百閒のように気ままに汽車の旅を楽しみたいものです。若い頃に故郷と上野を、夜行列車で行き来したことが思い出されます。でも、今は無理。ワクチン敗戦が語られるほど、遅すぎました。でも当面これに期待するしかないようです。これも人的災害かもしれませんね。国民の危機感と閉塞感を利用して、緊急事態条項を盛り込んだ改憲を狙うスカ政権と自公維新はアンフェアです。どさくさに紛れての独裁政治は許せません。

明日26日は皆既月食、スーパームーンと重なり素敵な夜空になるはずです。屈託を晴らす一夜にしましょう。

どうぞご健勝であるように。


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