「200字の書評」(347) 2023.7.25
お暑うございます。
蒸し風呂の様な日本列島です。但し、私の郷里釧路は別世界、避暑をするならお薦めです。真夏でも20~25℃ほど、朝晩は長袖が必要です。停滞する梅雨前線によるものでしょうか、九州、中国、北陸、東北の日本海側では豪雨による被害が連日報じられています。都会には都会の、過疎地には過疎地なりの被災の形があるように見受けられます。救援復旧の手配が整えられ生活が成り立つよう願うばかりです。
さて、今回の書評は日本の顔京都への接近です。
森まゆみ「京都不案内」世界思想社 2022年
修学旅行以来京都とは、観光、著名な寺社、歴史の痕跡、チョット高級感のある料理などが思い浮かぶ。近頃は桜と紅葉の季節の混みようと言ったら、地元市民にも不満が募るほど。そしてイケズと言われる排他性も話題となる。その地で谷根千の森まゆみが体験する京都の素顔とは何だったのだろうか。療養を兼ねての半定住生活は、暮らしと人脈を辿る新発見の連続であった。観光都市とは違う地べたに生きる人の姿が活写されている。
【文月雑感】
▼ 線状降水帯なる現象により一定の地域に雨が降り続く。河川や排水路の能力を超えると堤防が決壊したり、下水が逆流して街中を水浸しにしてしまう。自然の威力の前には人間の力の何とひ弱なことか。成すすべなく家が濁流にのみ込まれるのを見守る住民の心中を慮ると、それはそれは悲しいことだろう。自然の前には無力とはいえ、少しでも被害を減らせる道はあるはず。山は荒れていないか、川床は上がっていないか、堤防に緩みはないか、無理な河川改修はしていないかなど行政上の対策に眼を凝らす必要がある。住宅地では、本来宅地に不適当な場所(旧河川敷、遊水池、谷間)に建売住宅を建ててはいないか、急傾斜地を宅地造成して雛段状に形成してはいないか、などなど考える余地はありそう。古の治水の智慧には、霞提のような構造があり、信玄堤と呼ばれる治水の工夫もあった。人間の生活と自然との緩やかな共存を図る時かもしれない。
▼ 再審が開始される袴田事件で検察は有罪を立証するという。理不尽としか言いようがない。すでに裁判所において権力側の証拠捏造さえ指摘しての再審である。検察のメンツと威信とやらのために、冤罪で苦しめられた一人の人生をさらに踏みにじるのだろうか。権力とは斯くも傲慢なのである。それにつけても残念なのは、有力なメディアがこうした検察と対峙しないことである。権力への異議申し立てはジャーナリズムの重要な役割であると思うのだが。
<今週の本棚>
白井聡/高瀬毅「ニッポンの正体」河出書房新社 2023年
我が国の国体とは、かつての天皇の位置にアメリカが座っていると喝破した気鋭の政治学者と、反骨のジャーナリストとの対談である。戦後の国体こそが現代の日本を捻じ曲げている、それを受け入れており様々な現象が掘り下げられている。沈下する日本の行く末が気になる。
渡辺靖「白人ナショナリズム」中央公論新書 2020年
人種という極めて非合理な理由によって有色人種と外来者を差別する。そこには白人の優位が崩れ去ろうとする現実への恐怖感がある。アメリカにおいては先住民へのジェノサイドからの建国の歴史が色濃く反映していて、同じ白人であっても、遅れてきた移民は下に見る傾向がある。格差の拡大と分断の広がるアメリカの行く末、欧州でも台頭する右派勢力の伸長に不気味なものを感じる。
★徘徊老人日誌★
7月某日 6時前に既に強い日差しになっていて、日課の早朝散歩には日傘が必需品になっていた。ここ数日はあまりの暑さに、散歩は見送っている。楽しみの一つだった、季節ごとの花は端境期なのかあまり見当たらず、咲いている花も萎れてしまっている。尋常でない暑さが去り、安心して歩ける日を待望する今日この頃。
7月某日 年長の友人からレターパックが届いた。厚めの本が数冊入っている。読みたかった本なのでなるべく早く読み始めたいと思った。既に別な友人がお薦めの本数冊を届けてくれている。自分で購入した本もあり、読み止しのものも複数ある。読書速度が遅くなり理解力も低下している。果たしてこれらの本を読み切れるのだろうか。
7月某日 昼前の電車に乗って鶴瀬に向かう。太極拳の仲間との昼食会。参加者は9人、それなりに年輪は刻まれているものの、昔のままの闊達さで話が弾む。30数年前の小学校体育館を借りての練習、夏は汗と道連れ、真冬は手をかじかませての練習。春先には練習帰りに早咲きの桜の下で、寒さに震えながら缶ビールとお握りでの夜桜見物など話題は豊富。笑いが絶えない。良き仲間である。
7月某日 蹌踉と羽田空港に行き機上の人になる。釧路の友人が入院し手術するという。かけがえのない家族ぐるみの友、励まし励まされて来よう。郷里の冷涼さも懐かしい。市立病院の廊下から点滴器とともに現れた彼は、幸い顔色も良く意気消沈している様子はなくて一安心。手術の順番は月末とか、ドクターXの手によって首尾よく終わって、笑い話になることを望む。再会を約して20℃前後の釧路から降り立った羽田は酷暑。同じ日本とは思えないほど、この飛行機で戻りたくなった。蛇足ながら、その夜K子夫人+1人の3人で釧路川沿いの岸壁炉端へ。ホッケ、ホタテそしてサッポロクラシックビールは、炭火の暑さと背後からの川風が調和してことのほか美味だった。病人には申し訳なし。短い滞在ながら、意義ある旅だった。
毎日毎日酷暑と豪雨被害が報じられます。地方の被災地では高齢化もあって生活再建もままならず、過疎が進行するのではないかと案じられます。比較的平穏な埼玉の地の有難さを感じています。でも、安穏としてはいけませんね。
どうぞご健勝でお過ごしください。
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