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「200字の書評」(299) 2021.7.25



こんにちは。
お変わりありませんか。

暦は大暑です。暑さは尋常ではありません。郷里釧路でも先日29℃になったと友人がぼやいていました。別な知人からの葉書では、朝晩は寒くてストーブに火を入れるとも書いてあります。朔北の地の厳しい気候です。一方で内陸の十勝、旭川地方では38℃にもなったとか、大陸性気候の典型です。

この猛暑での五輪騒ぎ、国民の安全安心とはいったい何を指すのでしょうか。自治体や企業にワクチン接種を脅し紛いで煽っておきながら、いざとなったらワクチンはありません、と宣う。詐欺師です。信義とか礼節は何処に行ったのでしょう。メディアはすっかり五輪礼賛報道、都会の盛り場は人であふれかえり高速道路は大渋滞。地元の鶴ヶ島、坂戸も連日二桁の感染者が出て不安が高まっています。鶴ヶ島市立図書館は休館。今でもこの状態、五輪終了後の惨状が見えるようです。

さて、今回の書評は河川氾濫をめぐり命を守るための、貴重で初歩的な入門書です。




岸由二「生きのびるための流域思考」ちくまプリマー新書 2021年

自治体が発行している防災地図を確認しているだろうか。近年、台風、集中豪雨などによる浸水被害が頻発し、広域化深刻化している。雨水を集めて流れる川は一度氾濫すると行政区画とは無縁であり、水系として広域的な対処が求められる。雨水処理は法的には河川法と下水道法によるが、生態系、自然保護、生活圏などを考慮して流域治水という考え方を提起する。国、自治体、市民団体あげての鶴見川での実践例に学ばされる。




【文月雑感】


▼ この頃は早朝に散歩をしています。歩いている人も車もまばらで、マスクを気にする必要がありません。マスクと言えば、道端にマスクが投げ捨ててあるのを、少なからず見かけます。ゴミ出しの日は火バサミを持ち、気が付くと拾ってゴミ袋に入れるようにしているが、感心できない。

それはさておき、日中は暑くて外出は避けもっぱら読書と映画鑑賞で過ごしています。あることで沢山のDVDを頂いたので、作品が大量にあります。実は自分でも二律背反と思っているのだが、アメリカに強い反感を持っているのに西部劇が好きだったのです。白人移民が我が物顔に先住民の土地に入り込み、力づくで奪い去り差別をする。本来許せないことです。北海道開拓期のアイヌ圧迫と共通する面があります。それがわかっているはずなのに、なんという矛盾でしょうか。子供の頃から親の影響か洋画をよく観ていた。高校時代には定期試験で早めに下校すると、悪友と映画館に直行していた。成績が上がるわけがありません。

先日、その高校時代に観て以来の、グレゴリー・ペック/チャールトン・ヘストン主演の「大いなる西部」を観ていた時のこと。仕方なく付き合っていた家人が「脇役で通行人やカウボーイや馬に乗っている人は、いかにもそれらしいね」と言ったのです。「当時の西部の雰囲気が出ている」と言いたかったのでしょう。その他大勢の脇役によって、時代背景や雰囲気がでて主役が引き立ち、映画らしさがかもしだされる。ちょっとした仕草や歩き方、着こなし、まとっている空気が大切。そんな名もなき人物が映画を成り立たせている。日本の時代劇も同様で、武士には武士らしさが、町人には町人らしさがさりげなく表現されてこそ、時代が映し出される。人間だけではなく、セットや小道具も同様だと思う。映画は総合芸術だとされるが、つくり上げるには有形無形の要素が多層を成していると思う。


▼ 五輪開会式に出席したバイデン大統領のジル夫人は、来日するのに横田基地に降り立ったとか。公式訪問でありながら国際空港ではなく、自国の軍事基地から入国とは異常であり、礼節を欠いています。トランプと同じ振る舞い、やはり属国視しているのでしょう。


▼ 23日夜の開会式の予算は165億円。ロンドン五輪は43億円、リオ五輪は20億円とか、例のたかり企業に中抜きされているのでしょうか。しかも、連日大量の弁当廃棄も暴露されています。五輪の偽善、暗澹たる気持ちです。




<今週の本棚>


酒井順子「鉄道無常 内田百閒と宮脇俊三を読む」角川書店 2021年

偏屈な元祖乗鉄と時刻表乗りつぶしの達人を、ここまで解剖し、その共通点と違いを描き尽くしているのは、さすが酒井と思わせる。鉄道には摩訶不思議な引力がある。近頃の俄か鉄道マニアの傍若無人さには、非難の声もある。そんな人には是非この二人の著作を読んでほしい。


宮脇俊三「『最長片道切符の旅』取材ノート」新潮社 2010年

上記に続いて宮脇俊三を開いてしまうとは、彼と鉄道の引力によるものだろうか。34日をかけて全国の鉄道を一筆書きで乗り続けた際の克明なメモ。娘により整理され、これまた鉄道マニアの原武史の解説により活字になった。彼は時刻表を子細に吟味して、早朝一番列車に乗り効率よくレールを辿り車窓より見えるその時代を記す。車中の乗客や駅弁にも筆が及び、その土地土地の風情人情も興味深い。鉄道とは国鉄とは、昭和ノスタルジーかもしれない。




この書評のような、随筆のようなお便りも次回で300回目です。何を取り上げるか思案中です。ご希望ご意見があればお知らせください。

猛暑とコロナにご注意ください!


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