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三都メリー物語

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神戸、大阪、京都を背景に男女の人間模様を描いてみました。
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2020年5月の記事一覧

『三都メリー物語』⑰

走行中の車のフロントガラスに幾つかの雪が落ちては溶けた。仕事を終えたレイは、スーパーに寄った後、自宅アパートに帰るところだった。
アパートの駐車場に車を止めて降りると、冷たく刺すような風が肌に感じた。仕事に疲れた身体にはこの冷たい風がなおさら堪えるとレイは思う。袋に入った買い物の材料を抱え、自宅アパートの扉の鍵を解錠し扉を開けて中に入った。
灯りのない冷たい奥内は、閑散としていた。そこは、2D

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『三都メリー物語』⑱

白い雪が、レイが着ている黒いダッフルコートに当たっては、溶けている。暗い夜の道は、足の裏の感覚さえ冷たさで奪う。レイのアルバイト先のイタリア料理店から緩い坂を下って歩いて15分のところに、3階建ての小さなカラオケショップがあった。イタリア料理店のメインデッシュシェフの30歳半ばで神経質そうで眼鏡をかけている青木とパスタ担当の27歳くらいだろうか、茶髪で顎にわずかに髭をはやしている細身の白井、ホール

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『三都メリー物語』⑲

大阪の梅田のホーム内で待ち合わせをした。平日の午前10時は、通勤ラッシュほどではないが案外人がいる。明日がクリスマス・イブといこともあってホーム内のカフェはツリーやリースが飾られている。10分ほど早く着いたレイは、松田くんがまだ来ていないとわかると鞄の中にある本を取り出して読み始めた。その本の主人公は、引き寄せられるくらいの絵画に出会い、その絵画の中に入って冒険するという話でレイは、続きが読みたく

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『三都メリー物語』⑳

 外は、大粒の雪が降っていてイタリア料理店の前を通る道はうっすらと雪で白く道路と歩道の境目が日が沈むと分かりずらかった。 

 レイは、クリスマス・イブの夜にイタリア料理店で、皿洗いの仕事をしていた。予約がたくさん入っており、眼鏡をかけた神経質そうなシェフの青木は、メインディッシュのフィレ肉を焼いてはフライパンを洗い、またフィレ肉を焼いている。そしてその都度炎が上がる。
 パスタの茹で汁を捨てる時

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