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三都メリー物語

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神戸、大阪、京都を背景に男女の人間模様を描いてみました。
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2020年3月の記事一覧

『三都メリー物語』⑪

しゃ光カーテンの隙間から微かに太陽の光りが差し込んでいるのに目が覚めた。起き上がると少し肌寒い。慌ててレイはエアコンの暖房をいれた。
同じベッドで寝息を立てている夫の藤岡准教授を起こさず、静かに部屋を出た。
洗濯機に汚れた洗濯物を入れ、洗剤も入れてスイッチを押す。
温かいコーヒーを入れて飲んだ。
そういえば、レイの上司である34歳の男性の島田さんと、この会社を知り尽くしているようなレイの

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『三都メリー物語』⑫

 その夜、商店街のくじ引きで当たった花火セットを持ってレイと藤岡准教授は、自宅マンションの近くにある川沿いを歩いた。
夏の夜は、日昼と違って太陽のギラギラした刺激がなく、ぬるくて気だるいとレイは思う。

 街灯やマンションの家々の明かりから遠ざかったところで花火に藤岡准教授は、火をつけた。
しゃー、という音と共に火花を落としながら、一気に明るくなる。
二人は、童心に返ったように次の花火に火を

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『三都メリー物語』⑬

朝からどんよりとした厚い雲に空は覆われている。昼間は15℃を越えているのに、朝は2℃といった日中の寒暖差が何日か続いた。
そんな2月が終わる頃、いつものように通勤電車は、満員で終点駅の大阪で吐き出すように人が降りて行く。
社内のデスクに着くとレイは、既に出勤していた稲垣とお互い目を合わした。社内では、そんなに話すこともない。メールだけでやり取りしているだけだ。
そんなとき、レイの上司の島田が、

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『三都メリー物語』⑭

日曜日の朝、レイが目を覚ますと、既に藤岡准教授は起きていた。朝食を作っているのだろう、食器の合わさる音やフライパンで何かを炒めている音がする。
窓からレースのカーテンに明るい日差しがあたっている。
しかし、ロッカーに稲垣さんが迷惑しているといった手紙を置いたのは、いったい誰なんだろう。その日は何もなかったようにレイは振る舞った。けれど手紙を置いた人が実際いるのだ。仕事をしていても誰かと話をして

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