『三都メリー物語』⑪

しゃ光カーテンの隙間から微かに太陽の光りが差し込んでいるのに目が覚めた。起き上がると少し肌寒い。慌ててレイはエアコンの暖房をいれた。
同じベッドで寝息を立てている夫の藤岡准教授を起こさず、静かに部屋を出た。
洗濯機に汚れた洗濯物を入れ、洗剤も入れてスイッチを押す。
温かいコーヒーを入れて飲んだ。
そういえば、レイの上司である34歳の男性の島田さんと、この会社を知り尽くしているようなレイの 20歳年上の女性の長田さんは、昨日も二人、営業で外回りだった。
「長田さんと一緒だと、クライアントさんと話がまとまるよ」と、上司の島田さんは言う。
島田さんと長田さんは、この前資材室で二人は密会していた。
長田さんは、確か結婚しているはずだ。
島田さんも結婚していて、奥さんは大病を患い最近まで入院していたらしいときいたことがある。
あの時の話では、島田さんが長田さん夫婦は離婚をしてほしいとお願いしていたのだ。
しかし長田さんは、離婚をする気はないようだ。
そんな関係をいつまで続けるつもりだろう。
南向きの陽当たりのいいベランダで、洗濯物を干した。二月が終わろうとしているこの日、ベランダのガラス窓に蚊のような虫がとまっていた。
そういえば、太陽の動きに合わせて一年を二十四の区分に分けたのを二十四節気と言うらしい。その二十四節気の三番目を暖かくて虫が動き出す時期、いわゆる啓蟄なんだ、何かの本で読んだことがあった、確か三月の五日か六日辺りがそんな時期か、とレイはそんな虫を見て思った。
レイは、昨日の夜も稲垣にメールを送った。
『クレームの対応が苦手です。仕事が終わるといつも落ち込みます』
『修正しているところです。と進行形を知らせるといいと思いますよ』と、返信がきた。何だか稲垣さんの真面目さと、包容力がうかがえた気がした。
『アドバイス、ありがとうございます明日、映画を観に行ってきます』と、返信した。
その日の夜、レイは読書をしていると、ソファで寝てしまっていた。藤岡准教授は、すでにベッドで寝ているようだ。壁に掛けている振り子の時計を見ると、時計の針は夜中のちょうど二時を指している。
レイは、こんな時間だが稲垣に、
『いつの間にか、ソファで寝ていました。起きたらこんな時間でした』と、メールを送った。次の朝にでも見てくれるだろう。何気ないメールを。
すると、直ぐに携帯電話が、振動した。
『起きているんですね。外は、少し雨が降っていますね』
そんな返信が来た。
レイは、ソファで夜をあかすことにした。
そしてこの夜には、自分と稲垣の二人しかいない。そんな気がして、ソファで寝ていてもレイはなかなか寝つけなかった。

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