『三都メリー物語』⑫
その夜、商店街のくじ引きで当たった花火セットを持ってレイと藤岡准教授は、自宅マンションの近くにある川沿いを歩いた。
夏の夜は、日昼と違って太陽のギラギラした刺激がなく、ぬるくて気だるいとレイは思う。
街灯やマンションの家々の明かりから遠ざかったところで花火に藤岡准教授は、火をつけた。
しゃー、という音と共に火花を落としながら、一気に明るくなる。
二人は、童心に返ったように次の花火に火をつけた。あっという間 に終わり、残すは、小さな袋に入った線香花火だけになった。
二人は、しゃがんで藤岡准教授が、レイの持っている線香花火に火をつけた。
「線香花火は、火をつけて20秒で終わるんだ。もし少しでも長く続けようと思ったら、傾けるといい。45度斜めに。火は、上へ上へと行く習性があるからね」と、藤岡准教授が言った。そして、
「線香花火は、人の人生を例えている。小さい火から、勢いのある火花を散らし、大きな玉になって
やがては落ちる」と言った。
そんな小さな灯りを見ながら、これから自分たちは、どんな未来になるのだろうかと、ふとレイは思った。
次の日、レイは出勤のため満員電車の中、手摺りも掴めず電車の揺れを、足で踏ん張りながらも息苦しいなかで、電車は大阪駅へと向かった。
社ではレイが、自分のデスクに着こうとした時、稲垣がレイにこっと微笑んで通り過ぎた。あのバレンタインの頃から一年と四ヶ月レイは、メールを送っている。
レイの隣の森本ユマは、既婚者がいながらユマの後ろのデスクの男性の井上と付き合っていた。その事や仕事のことで、レイは稲垣にメールで相談していたが最近では、そんな事は何も触れず、自分の好きな映画の事や最近行った場所をメールしている。
その間にユマは、井上とは別れていた。
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