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【映画】語り継がれるバットエンド『ウエストサイドストーリー/スティーヴン・スピルバーグ監督』
めちゃくちゃポップなミュージカル映画が観たくなって、予告編に惹かれてこちらの映画を観てみた。
ザ・ミュージカルで入口からその世界観に魅せられる。1950年代のアメリカを舞台にしているということで、私が大好きで、よく、何度も見返しては一人で音楽に合わせて踊っていた、ミュージカル映画「ヘアスプレー」の舞台ともなんだか雰囲気が重なってワクワクしながら観ていた。
ストーリー的にも重なる部分があって、この「ヘアスプレー」は、背景にアメリカの黒人の人種差別を色濃く描いているラブストーリー。本作は、背景に貧困にあえぐアメリカの移民、プエルトリコ系移民とヨーロッパ系移民の闘争や貧困、差別を色濃く描いているラブストーリーで、当時のごくあたり前の日常の中にあった貧困や差別が、明るくポップなミュージカルの中で、かなり露骨に描かれているので、とても面白いし、勉強になる。
本作でも当時の移民社会にはびこっていた深い深い貧困の根の問題が、明るくポップにミュージカルとして描かれていて、作中の「クラプキ巡査への悪口」の歌なんか、「僕たちは精神異常者だ」とめちゃくちゃ明るく連呼していて、そのシーンはもう圧巻だった。
俺の親父はクズ お袋は淫売
ジイさん酔いどれ バアさん売人
妹ヒゲ生やし 兄貴は女装
もうハチャメチャ 俺グチャグチャ
クラプキ巡査 マヌケだな
治療ではなく仕事が必要
散々社会にイジめられ
社会学的病気!
病気 病気 俺たち病気
社会学的病気!
単なる移民の貧困問題として、ドキュメンタリーとして伝えられるよりも、こうやってどこまでも明るくポップに、人々の日常として描かれている皮肉的要素があいまって、より、人々の心にその問題の根深さが届いたりするのではないかとも思ったりする。
全然映画通でもなんでもないけれど、ここに、スピルバーグ監督っぽさが表れているのかななんて思ったりもした。
そうやって、皮肉要素全開のミュージカルを楽しみながら映画を観ていたのだけれど、結末は、まさかまさかのバッドエンドで、最後の方は、悲しくて、つらくて、もう観ていられなくて、時々一時停止しながら必死で観るのがやっとになるくらいにバッドエンドだった。
段々と、重くなっていく映画の雰囲気の中で、印象に残った2つのシーンがある。
1つ目は、互いに死者が出た闘争ののち、ヨーロッパ系移民(ジェッツ)側の隠れ場所に、プエルトリコ系移民側で、かつ、闘争を指揮して殺されてしまったベルナルドの恋人が、その場所を尋ねるシーン。
闘争で身体にも心にも傷を追って、大切な仲間が殺されて、しかも警察にも追われている。いつ捕まるのかわからない。そんな過酷な状況下の中で、彼ら(ヨーロッパ系移民たち)が取った行動は、その恋人(プエルトリコ系移民)へのレイプだった。
もちろんその瞬間彼らは殺気立っていたのだろうし、頭にも血が上っていたことはわかるけれど、やっぱりどう考えても大切な仲間を失ったあとで、レイプをしようとする感覚がどうしても私には理解できなかった。けれど
、理解できなかったからこそ、印象に残った。
日本社会ではあまり表に語られないことが多いような気が私はしてしまうけれど、いつだって、貧困と性の問題は根深く結びついている。レイプや売春、風俗など、違法とされて取り締まられている背景には、必ずどこかで貧困の問題があって、そこを見たくないものとしてふたをしてしまうのではなく、しっかりと目を向けないといけない部分だと映画を通して私は、強いメッセージを受け取った。
2つ目は、最後の結末を迎えるシーンだ。目の前で愛する人(トニー)を銃で撃たれて殺されたマリア。周りの仲間たちもそれを見ていて、しばらくすると彼らは死体となったトニーを担いで、歩いていく。そのあとを追うようにマリアも歩き出す。
印象的だったのは、そんなトニーを撃ち殺した張本人(チノ)のもとに、ドッグが駆け寄って、その彼も含めてまた、歩き出すシーン。
別に言葉なんて誰一人発していないのに、そのメッセージ性に圧巻だった。
誰が殺されようと、私たちは生きていて、大切な人を失っても、誰かを殺しても、みんなその先を生きてゆかなければならない。そうやって人生は続いていく。
そこで終わり。じゃなくて、みんなが歩み出した部分を描くことによって、その続きが続いていくような気がして、私は深く印象に残ったのだと思う。
どう考えても名作映画でしかなかった。
ミュージカル映画って、今まで比較的ハッピーエンドのものしか見たことがなかったけれど、こういうバッドエンドの終わり方で、人々にインパクトを残し、語り継がれる映画もあるんだと新しい発見になった。