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📖「サンショウウオの四十九日」

少し前に、現役医師でもある朝比奈秋の小説「私の盲点」を読んだところとても良かったので、芥川賞受賞作「サンショウウオの四十九日」も早速手に入れた。
先日読み終わったので、印象に残った部分や自身の解釈などを備忘録的に記しておこうと思う。

読書ノートに近いため、ネタバレ注意⚠️

「伯父が亡くなった。誕生後の身体の成長が遅く心配された伯父。その身体の中にはもう一人の胎児が育っていた。それが自分たち姉妹の父。体格も性格も正反対の二人だったが、お互いに心を通い合わせながら生きてきた。その片方が亡くなったという。そこで姉妹は考えた。自分たちの片方が死んだら、もう一方はどうなるのだろう。なにしろ、自分たちは同じ身体を生きているのだから――。」(帯より)


<どういう本であったか?>
結合双生児の姉妹は、身体だけでなく感覚・記憶・感情まで共有していて、それらは個人的なものではなかった。
思春期の多感な時期に、そのことについて怯えたこともあった。
だがその怯えは、”他の人たちも同様に抱えているものだ”と結論付けていたのが印象的だった。
確かに誰もが、他人との関係の中で思考・記憶・感情をかき乱され、それが身体に影響を及ぼすことだってある。

ただ「意識」まで融合してしまったらどうなるか?という一番大きな恐怖については、解決されず二人の心の奥底にしまい込まれたようだった。

落ち着いていたそれが、自分たちと似た境遇の父兄弟の片割れ、伯父の死によって再び爆発してしまう。
その「第二の葛藤の時期=伯父の死去~四十九日までの期間」として描かれているのが、なんとも言えないまとまりの良さとして感じられた。

尚、帯にある「自分たちの片方が死んだら、もう一方はどうなるのだろう。」ということについては、それほど葛藤したり怯えている様子は感じられなかった。


<印象に残ったところ>
睡眠導入剤… 「どこかが深く眠った分、どこかがより覚醒したように冴えわたってしまった。」P77
睡眠導入剤で眠りにつくと、大量の寝汗をかいたり、悪夢をみたり、金縛りにあったりするため、大いに共感した。

陰陽図… (白の中の黒い点、黒の中の白い点は)「陽中陰、陰中陽とそれぞれ呼ばれていて、陽極まれば陰となり、陰極まれば陽となる、を表していて、対極はその果てで反転して循環するという意味であります。―中略― 一つの円を成しているのは相補相克を表現しております。」P79「一つの極が増大し成熟すると、やがてその中心に対極が生まれる。」P83
誰の中にも陰と陽があるとすれば、人生は陰と陽のバランスであり、循環である。陰と陽は表裏一体。良い時もあれば、悪い時もある。陰に吞み込まれたのなら、うまく成熟させて陽を生み出したい。

視点変更 節ごとに視点が杏(私)と瞬(わたし)で交互となっているのが特徴だが、終盤でそのルールが崩れることにより、体調不良と酔いによる二人の意識の混濁(極陰状態であり、葛藤のクライマックス)が表現されており、自身も混乱という形で話に巻き込まれた。

扁桃腺 毎年、右側(瞬側)の扁桃腺が腫れるが、今回は左側(杏側)の方がより酷く腫れており、繊細で考え込みすぎる性格の杏が、この四十九日間でより苦悩したことが改めて窺われた。

終わり方 極陰から陽転した二人の安らかさに救われる、美しい終わり方。


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