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エッセイ

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赤いピアノ

赤いピアノ

 朝、散歩ついでにコンビニで買ってきたティラミスは一口目で「甘すぎる」と声に出しまうほど甘かった。でもこれが食べたかったんじゃないのともう一人の自分が言うから、それもそうだったと思いコーヒーを流し込む。友人の引越しを手伝ったときに貰ったコーヒードリッパーで淹れたやつ。今日は結構上手くいったから嬉しい。

 お気に入りの歌集、藤本玲未さんの『オーロラのお針子』を手元に置いてパラパラとめくる。Blue

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1年のはじまりと、地続きの日々

1年のはじまりと、地続きの日々

2019年になった。

年末年始の空気も落ち着いて、もうすぐ仕事が始まろうとしている。人より少し長い冬休みだったから社会復帰できる気がしないな、なんて思っていても始まればきっとうだうだ言いながらも楽しめるのが想像できる。(始まる直前が一番辛いやつだよね)

本当は2018年の終わりにもノートを書いていたのだけど、なんだか言いたいことがたくさんありすぎてそしてそれを無理やり言葉にしたら野暮になってし

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聖夜に思い出す人のこと

聖夜に思い出す人のこと

聖夜。
12月25日は、初恋の男の子の誕生日だ。

「誕生日おめでとう、そしてメリークリスマス」

とだけLINEを送った。すぐに短い返信が来る。彼らしいな、と思いながらスタンプを送って画面を消した。

小学生の頃から、お互いの誕生日にお祝いのメッセージを送り合っている。手紙、メール、LINEと形を変えながらも15年くらいそれは途絶えることなく続いていた。

元彼の誕生日はろくに思い出せない

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土曜の夜、地下鉄のホームにて

土曜の夜、地下鉄のホームにて

「ふたつにひとつだよ」

その言葉を聞いたのは駅の改札を入ったところだった。見知らぬ駅で、帰るために電車の検索をしようとするわたしの横で彼は軽やかにホームに降りていく。そっちで合ってるの?と慌ててついていくと、真面目な顔で言い放った。たしかにホームはふたつしかないけれど。でも。戸惑いながら着いたホームで調べてみると、どうやら彼の選択は合っていたらしい。それを伝えるとふふんと得意げだ。

「偶然じゃ

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shampoo

shampoo

赤信号で車が止まった時、髪を撫でてくれた指先を今でも思い出す。

かつて好きだった人と過ごした時間の半分くらいは車に乗っていたと思う。わたしは免許を持っていないし、助手席のセンスもなかったからあの人には迷惑を掛けたなあと今更のように思い返してみたりする。でも、車の中の時間がとても好きだった。ナビに目的地を入力して、目的地到着予定時刻が表示されるとき、その時間が少しでも先であればいいと願っていた。

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プレゼントという名の救い

プレゼントという名の救い

最近、なんかちょっとダメだと思うことが続いていた。風邪を引くし、肌は荒れるし。仕事が忙しくて銭湯に行けていないし、あの人から急に連絡が来たかと思えば返信が来ないし。何か悪いことの決定打があったわけではない。“なんかちょっとダメ”なことが続いていることがしんどかった。もやもやしていた。

そんな今日、ついさっき。プレゼント企画に当選した。

パソコンで悶々としながら文章を打っていたらふぉん、とメール

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スピカと引力

スピカと引力

スピカ、という星がある。

乙女座のα星。何語だったかは忘れたけど麦の穂先、という意味だった。北斗七星、うしかい座のアークトゥルスと繋げる春の大曲線としても知られている。

実はこの星はひとつの恒星ではなく、ふたつの星でできている。太陽の何倍も大きなふたつの星がとても近い距離でぐるぐる、回っている。大きな星はそれだけ引力も強くなるのに、このふたつの星は衝突することなくものすごい速さで回り続けながら

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あまい、あまい、雲。

あまい、あまい、雲。

綿菓子をはじめてつくった。

ぶおおおん、と唸る機械からどんどん薄い雲が出てきて、そこに割り箸を入れて回していく。少しついてきたら、割り箸を動かさないでその場でくるくる回すだけでついてくるから柔らかい綿菓子になるのよ。教えてくれた人はまるで魔法みたいにあっという間に大きくて丸い綿菓子を作ってみせた。

すごいですね、とため息をつくみたいに言うとその人にじゃあはい、と割り箸を渡された。瞬間、慄く。

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ヒロインとつまんない女

ヒロインとつまんない女

つまんない、あんたって本当つまんないね。

スクリーンの向こうでヤスコがツナキに言う度に、その言葉が刺さった。血を流しながら夜の街を走るヤスコはつまらなくなんかなくて、本当に美しかった。

疲れないようにしてるんでしょう。

その通りだ、何も言葉が出ない。疲れないように、傷つかないように、笑っている。

『生きてるだけで、愛。』という映画をわたしは完全に、つまんないと言われる男ツナキの視点から

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透明な傘

透明な傘

雨の匂いが好きだ。それが「ペトリコール」と呼ばれていることを最近知った。ペトリコール。なんとなく舌触りが良くて思わず口にしたくなる。正確には雨の匂いではなくて、雨が降って地面から立ち上がる匂い、だそうなのだけどちょっと難しいことはよくわからない。ただただあの匂いが好きで、とても安心する。

だけど雨自体はあまり好きじゃない。つめたいし、濡れるし。お気に入りの服を思い切りよく着れないし、着たとしても

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幼馴染だった

幼馴染だった

少し前に、男ともだちが街を出て行った。

同じマンションの同じ棟に住んでいて、小中高同じ学校に通って、大学も同じサークルに入っていた男ともだちがいる。幼馴染じゃん、と人からはよく言われていたけれどその度に2人で首を傾げていた。馴染んでたかな?そうでもないよね?なんて。“幼馴染”という言葉のイメージがどうにもわたしたちには合わないくらい、小さい頃から仲良しという訳ではなかった。

小中一度も同じ

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冬眠

冬眠

週の真ん中の水曜日、仕事終わりに銭湯に寄った。帰り道、つめたさの混ざる風が髪の毛の間を通り抜けて今日は立冬だったっけ、と思い出す。

朝、職場で掃除をしているときに、飼っているカメが静かに動かなくなっているのを見た。つい最近までエサをよこせ、と水槽を叩く音がうるさいくらいに響いていたのに。不安になって近くを通った先輩にそれを話すと「そろそろ冬眠するんじゃない?今日は立冬だしねえ」と穏やかに言われた

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睡魔に抗えない

睡魔に抗えない

わたしは、よく寝る方だと思う。

三大欲求の中で、睡眠欲がダントツで強い。
一時期「眠い」が口癖になっていて、それは人としてどうなんだと指摘されて慌てて直した。とにかく眠い。そしてしっかり寝なくちゃダメだ、というき気持ちも大きい。もはや脅迫概念と言ってもいいくらいに。どんなに仕事が忙しくても6時間は絶対に睡眠時間に当てるという約束を自分としている。そうしないと次の日に起きた時だるくて、「あー、昨日

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宇宙に伸ばしていた手

宇宙に伸ばしていた手

将来の夢がない子どもだった。

小学4年生の頃、親たちの前で「わたしの夢」というテーマでスピーチをする会があった。先生が将来の夢について考えておいてね、とにっこり笑ったときに「あーあ、また出たよ」とげんなりした覚えがある。

小さい頃から幾度となく繰り返されてきた「大きくなったら何になりたい?」「将来の夢は?」という質問が大嫌いだった。周りの子はきちんとその時その時で自分がなりたいものを見つけて答

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