
トランプのように複雑な物語…「カードミステリー 失われた魔法の島」ー私がお店を開いたら扱いたいもの(古本)ー
ヨースタイン・ゴルデル「カードミステリー 失われた魔法の島」山内清子訳
あらすじ 夏、北欧からギリシャへ、美しい母を求める息子と父は旅に出た。息子だけが手にした「魔法の本」、父だけが語ることのできる哲学と智恵、そして二人を過去の魔法に結びつけた、謎の小人の冷たい手…。緻密に大胆に織り上げられ、「ソフィーの世界」に先だって、「ほんとうに面白い小説」としてヨーロッパ各国で話題を呼んだ小説。ノルウェー批評家連盟賞、ノルウェー文化庁文学賞受賞。(カバーの文より)
私は北欧に興味があった。そこから出て旅をする親子の話に心が惹かれた。
それに、「魔法の本」というワードにも魅力を感じた。
それに、小人。そのワードも魅力的ではないか。
著者:ヨースタイン・ゴルデル 1952年ノルウェーに生まれる。高校で哲学を教えながら、1986年に作家としてデビュー。1990年に書いた「カードミステリー」で批評家連盟賞、文化庁文学賞を受賞、作家として地位を確立するとともに、ヨーロッパで広く人気を博する。1991年に書かれた「ソフィーの世界」は世界的ベストセラーとなった。(カバーの文より)
「ソフィーの世界」は、名前は微かに聞いた覚えがあったが、詳しくは知らなかった。
それも読んでみたいと思った。
感想
題名に「カード」とつくように(原題を直訳すると「トランプの一人遊びのミステリー」らしい)、
目次で各章が「スペード」♠️や「クラブ」♣️などとなっており、各節もA(1)からK(13)であり(ジョーカーの章を除いて)、
本文中でもそうだけれど、トランプが重要な点になっていて興味深い。
訳者あとがきの、作者が語った言葉の紹介で、この物語がトランプの53枚に対応して53章になっていることに改めて気づいた。
あらすじのなかで、「緻密に」と書かれていた理由の一つがわかった気がする。
トランプそのものは明快で(数字などきちんとしていて)あるが、
それでいて、遊び方は様々にあり、複雑だ。
この物語もそうだ。
一見、父と子が母親を探しに行くという明確な一本の糸のような物語。
けれど実は、幾つもの糸が組み合わさり、織られて複雑な文様を描き出している物語だ。
この本は、現実とファンタジーが上手く重なり合っている。
哲学が語られ、読み進めていくうちにそれも物語と共に味わっていく。
そんな感覚。
そして、物語の進行と共に、パズルのピースが当てはまっていくような感覚。
謎解きとまではいかないけれど、徐々に露わになっていく過程が楽しめる。
物語の中の全ての出来事は、偶然や運命というよりも、必然という感じがした。
不幸なものはいない、
「不幸なものは生まれてないから。生命というのは、巨大な宝くじの『当たり』なんだよ」(141頁)
そう考えたことはなかったので、新鮮だった。
自分も、主人公の父親のような考えを持つこともあるので、彼の言葉や生き方に共感した。
でも、やはり、彼は生きづらいだろうな、とも思う。
私もそう感じるように。
戦争による別離、両親との関係、離れ離れの家族、哲学…色々な要素が組み合わさった作品だった。
戦争や家族の別離など、マイナスなことは、児童書とカテゴライズされる本では、扱われてこなかったと聞いたことがある(ケストナーの「ふたりのロッテ」の頃から徐々にそういったものが増えてきたとも)。
でも、現実のマイナス面も描く作品を読んで思うのは、子どもが読む(大人も読むけれど)本にも、そういったエッセンスは必要だということ。
もちろん、砂糖菓子のように甘い物語も必要だ。
それは、子どもに限らず、大人にも。
体が甘いお菓子を欲するのと同じように。
けれど、時々、ピリッとスパイスが効いたものを食べたくなるように。
苦味が料理のアクセントになるように。
現実の負の面を描くことも、物語の味として重要なのだなと改めて思った。