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砂の器

鑑賞時の感想ツイートはこちら。

1974年の日本映画。松本清張の推理小説『砂の器』を原作に、野村芳太郎監督が映画化。日本映画史に残る傑作。

迷宮入りと思われた殺人事件をめぐり、真相を追う二人の刑事の粘り強い捜査と、背負った暗い過去ゆえに殺人を犯してしまう犯人の宿命を描いた社会派サスペンス作品です。英題 "The Castle of Sand"。

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出演は、丹波哲郎森田健作加藤剛島田陽子緒形拳加藤嘉、佐分利信、山口果林、渥美清、ほか。

監督は、『八つ墓村』、『事件』、『鬼畜』、『震える舌』などを残した名監督・野村芳太郎

脚本は、『羅生門』、『生きる』、『ゼロの焦点』の橋本忍と、『男はつらいよ』シリーズ、『幸福の黄色いハンカチ』、『たそがれ清兵衛』の山田洋次

音楽監督は、『八つ墓村』、『鬼畜』、『疑惑』の芥川也寸志。作中で最も印象的なテーマ曲「宿命」の作曲は、菅野光亮

名匠・野村芳太郎監督による傑作!

令和のいま「野村芳太郎」という映画監督をご存じの方は、なかなかの映画好きと拝察します。わたしがはじめて出会った野村芳太郎作品が、本作『砂の器』でした。

「日本の名作映画・ベスト○○」なんていうランキング形式のリストには、必ずと言っていいほど入っている作品だったので、以前から気になっていたのです。「そんなに良いのかな~」って。

それで、ある時、満を持して観てみることに。

1974年の作品なので、「国鉄」「トリスバー」など、冒頭から昭和の香りが色濃く漂う雰囲気に懐かしさいっぱい! わたしは1967年生まれなので、ちょうど子どもの頃に見た風景と重なるんですよね。

昭和の国鉄の食堂車!
(©1974 松竹株式会社/橋本プロダクション)

出演している俳優さんも、見覚えのある顔ぶれがズラリ。松山政路さんとか出ているんですよ、懐かしい!

身元不明だった被害者の養子役に松山政路(右)。事件を追う今西刑事(丹波哲郎/左)と。
(©1974 松竹株式会社/橋本プロダクション)

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原作は松本清張の推理小説とあって、事件の真相が少しずつ紐解かれていく展開など、次第にストーリーにググッと引き込まれてゆきます。後述しますが、“原作超え” と言われる程の本作の構成の素晴らしさは、橋本忍と山田洋次、両名の脚本によるところが大きい。

「そんなに良いのかな~」という軽い好奇心から始まった『砂の器』との出会いでしたが、観終えた後は感動感動大感動の号泣! 映画を観てこんなにも “魂が揺さぶられる” 体験は『ニュー・シネマ・パラダイス』以来かも。

よわい五十を超えてこんな傑作と出会い、素晴らしい映画体験ができたこと、本当に「良かったなぁ」と歓びを感じます。

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ほどなくして、本作の野村芳太郎監督が、ずっと前に観て超絶面白かった『疑惑』(1982年)の監督でもあり、大好きな山田洋次監督のお師匠さんに当たる方だと知り、以来、野村芳太郎作品にドハマりすることに――。これまでに観た作品はこんな感じ。

○ ゼロの焦点(1961年)
○ 拝啓天皇陛下様(1963年)
○ 八つ墓村(1977年)
○ 事件(1978年)
○ 鬼畜(1978年)
○ 震える舌(1980年)
○ 疑惑(1982年)

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○ ゼロの焦点(1961年)

鑑賞時の感想ツイート。

○ 拝啓天皇陛下様(1963年)

鑑賞時の感想ツイート。

○ 八つ墓村(1977年)

鑑賞時の感想ツイート。

○ 事件(1978年)

鑑賞時の感想ツイート。

○ 鬼畜(1978年)

鑑賞時の感想ツイート。

○ 震える舌(1980年)

鑑賞時の感想ツイート。

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これらの野村芳太郎作品で、特に良かったのはこちらの3つ。

邦画全体のベスト9にも挙げています。

――と、このように、しつこいくらい(笑)わたしが「好き」「好き」と言い続けている野村芳太郎作品。その中でも、トップ・オブ・ザ・トップ、傑作中の傑作だと信じてやまないのが、本作『砂の器』なのです!

ああ……最初の30秒で既に涙腺が……。泣

構成と脚本が素晴らしい!

本作の物語は、初夏のある日、国鉄(現・JR)蒲田操車場で身元不明の男性の殺害死体が発見されたことから始まります。事件の捜査を担当するのは、ベテランの今西刑事(丹波哲郎)と若手の吉村刑事(森田健作)。

今西(丹波哲郎/左)と吉村(森田健作/右)
(©1974 松竹株式会社/橋本プロダクション)

この二人の刑事コンビがまた良いのです。俳句を詠むのが趣味のベテラン刑事・今西(丹波哲郎)。捜査は難航し、長期化。若手刑事・吉村(森田健作)は、別の新しい事件へ担当を移された後も、愚直に根気強く真相を追おうとする。

TVドラマなどによくあるような格好良い刑事像ではなく、真摯で地に足のついた、どちらかといえば “職人” に近い仕事ぶり。真相を究明し犯人を逮捕する――という共通の目的と熱意で繋がれた二人の関係性も、温かみがあって好きです。

当時、慣れないシリアスな作品で初めての刑事役を演じることになった森田健作さんは、撮影に入るにあたって、奇遇にも映画と同じ蒲田署で刑事をやっていたお父様に相談してから役作りをしたそう。

映画やテレビのようにかっこいいものじゃない。靴もすり減るし、スーツもよれよれになる。1週間ぐらい蒲田署に行って刑事の立ち振る舞いを見て来い!と教わり、実際に蒲田署に行って現場の刑事から様々な事を学んだ。
「こういったらおかしいけど、普通の人たちなんですよ。それがものすごく勉強になった。だから芝居のときもかっこつけようとは思わなかった」と当時の役作りのエピソードを懐かしげに話す。

(2019年に開催された『砂の器』シネマ・コンサートに寄せてのインタビュー記事より)
(※リンク先にネタバレあり。注意)

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本作のストーリーは、この二人の刑事が時には空振りもしながら丹念に事件の捜査を進めていく「前半部分」と、粘り強い捜査の末、逮捕状を請求する会議の席で実情が明らかになってゆく「後半部分」で構成されています。

(©1974 松竹株式会社/橋本プロダクション)

実は、本作のクライマックスとなる後半部分(親子の旅の回想シーン。会議室での丹波哲郎の語りと共に描かれる)は、原作には一切書かれておらず、脚本の橋本忍さんと山田洋次さんがイメージを膨らませて考えたもの。

なんていうか、もう……


あなたたち天才ッ!!涙

四季折々の風景が美しく、だからこそ余計に観る者の胸に迫ります。本当に素晴らしい。

(©1974 松竹株式会社/橋本プロダクション)

これからご覧になる方には存分に堪能していただきたいので、画像はほんの少しだけで。お許しくださいね。

(©1974 松竹株式会社/橋本プロダクション)

この構成と演出には、原作者の松本清張氏も「小説では絶対に表現できない」と賛辞を贈ったとのこと。

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後半の見どころといえば、もうひとつ絶対に挙げておきたいのが、加藤嘉さん! あのシーンは本当に忘れられない。

(©1974 松竹株式会社/橋本プロダクション)

わが家では、1回目はわたし一人で鑑賞、2回目は猛烈に感動したわたしが息子に布教して親子で鑑賞。なので、いまだに家庭内で、あの加藤嘉さんの名セリフをものまねしたりしてます。笑

出演の役者陣がまた、素晴らしい!

本作を鑑賞済みで、ここまでお読みになった方はお気づきになられたでしょうか?

この記事、頑張ってネタバレなしで書いています!

サスペンス(*)という映画の性質上、物語の核心に触れずに本作の良さをご紹介するのは、とっても骨の折れる作業でして。(種明かしに当たる後半部分が一番の見どころなので、ネタバレなしで書くのが難しい~! ぜぇぜぇ……笑)

*正確には、ラストに犯人が明かされるので「ミステリー」ですね。

でも『砂の器』は本当に名作なので、少しでも良さが伝わっているといいなぁ♩(伝われ〜!)

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さて、ここからは出演している役者さんたちについて。

まず、今西刑事を演じる丹波哲郎

(©1974 松竹株式会社/橋本プロダクション)

これがもう、サイコーに良い! 現場で叩き上げてきた刑事の、程よい “力の抜け感” も醸しつつ、出張先で俳句を捻ってみたり、捜査のヒントを掴んだ時はものすごーく嬉しそうにニコニコしていたり、中年のおじさんの可愛らしさも併せ持っていて、とても味のある刑事を演じています。

特にわたしが推したいシーンは、ココ!

1.序盤でワイルドに瓜を食べるシーン。
2.「布ぎれ!?」と叫ぶシーン。
 (“布れ” ではなく “布れ” なところがポイント♩笑)(あらためて確認したところ、電話ではなく署内での会話シーンでした)
3.後半のクライマックスで「繰り返し繰り返し…… 繰り返し繰り返し……」と重ねて言うシーン。

みなさん、メモしましたか?笑
ぜひ、ご注目くださいね。

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そして、後半に登場する子役の男の子、春田和秀くん!

(©1974 松竹株式会社/橋本プロダクション)

この少し怒ったような、きゅっと口を結んだ表情がなんとも言えない……涙。いい表情です。作中のこの子のすべてを物語っています。わたしは男の子を持つ母なので、この表情だけで涙腺が崩壊しました。

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それから、緒形拳

(©1974 松竹株式会社/橋本プロダクション)

ズーズー弁の田舎の駐在さん。この写真を見ているだけで、脳内にあの名曲『宿命』が浮かんで、うるうる……。

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それから、それから、政界の大物の令嬢を演じた、山口果林

(©1974 松竹株式会社/橋本プロダクション)

いかにも “何不自由なく育ったお嬢様” という感じがすごく出ていて、良いです。個人的な持論ですが、本物のお嬢様って、嫌味な所がなくて、快活で、軽やかな空気を纏っている――ような気がします。余計な苦労をせずにすくすくと育っているので、やりたいと思ったことは自由に挑戦できて、世の中を “生きやすい場所” だと思っているし、自己肯定感も高い、というか。

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それから、笠智衆

(©1974 松竹株式会社/橋本プロダクション)

この方は、どんな映画においても存在そのものが “味”!笑

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前述の加藤嘉は、言わずもがな。

(©1974 松竹株式会社/橋本プロダクション)

哀しみを湛えた瞳。素晴らしい。

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寅さんでお馴染み、渥美清さんも少し登場します。

(©1974 松竹株式会社/橋本プロダクション)

嗚呼! 豪華すぎる!

おまけの小ネタをいくつか。

最後に、本作にまつわるちょっとした小ネタを少々。

○ 加藤剛の弾き振りシーン

(©1974 松竹株式会社/橋本プロダクション)

天才音楽家の和賀英良わが・えいりょうを演じた加藤剛さん、惜しくも 2018年に亡くなられましたね。晩年の出演作では『舟を編む』(2013年)の国語学者の先生役が印象的で、好きな俳優さんでした。

本作では、ピアノの前で作曲しながら可愛い猫ちゃんを抱っこしている姿なども観られます。上記ツイートにあるコンサートでのピアノ演奏&指揮のシーンは、クラシック好きのみなさんから総ツッコミが入りそうではありますが、それもまた一興。笑

○ テレビドラマ版『砂の器』

野村芳太郎監督による映画版があまりにも名作で影響が大きかったからか、『砂の器』は時代を超えて、これまでに何度もTVドラマ化されています。その数、なんと7回!(*) 『忠臣蔵』並みの多さ!

○ 1962年版(TBS)
 出演:高松英郎、夏目俊二
○ 1977年版(フジ)
 出演:仲代達矢、田村正和
○ 1991年版(テレ朝)
 出演:田中邦衛、佐藤浩市
○ 2004年版(TBS)
 出演:渡辺謙、中居正広
○ 2011年版(テレ朝)
 出演:玉木宏、佐々木蔵之介
○ 2019年版(フジ)
 出演:東山紀之、中島健人

*筆者注釈:
Wikipedia の記述によると、上記6作の他にフジテレビ系列でもう1つドラマ化されている、とのことですが、資料がどこにも見当たりませんでした。もしかしたら「7回」ではなく「6回」なのかも……??

でもね、本作(野村芳太郎版)を観てしまうと、テレビドラマ版を観たいとは到底思えなくなってしまう――それがわたしの個人的な本音。がっかりしてしまいそうで。

というか、実際がっかりしたので。

わたしが上記のツイートをしたのは 2019年のドラマ版が放送された時なのですが、たぶん出演者(ジャニーズ所属)のファンとおぼしき若い方から、速攻で

「はァ?! 意味わかんない!」

みたいな、やや攻撃的なリプを1件だけ頂戴いたしまして、ジャニヲタさんって怖いんだな……と震え上がった思い出。

でも、それ以外の大多数の方はわたしと同じような感想を持たれたようで、少しほっとしました。

わたしの Twitter、フォロワー数のわりにいつも反響が少ない、きわめて細々とやっているアカウントなのですが(うう、寂しい)、この時だけは見たことのない数の反響があり、心臓がバクバクしました。

(野村芳太郎、おそるべし)
(ジャニーズの影響力、おそるべし)

田中邦衛さん&佐藤浩市さんのはちょっと観てみたい気もするけれど、やっぱりわたしにとっての砂の器は野村芳太郎監督の映画版が "one and only BEST" です!♡

○ 柴又散歩で一番興奮したもの

以前 こちらの記事に詳しく書きましたが、寅さんと山田洋次監督が大好きなわたしは、昨年の春に柴又を訪れまして。当然「寅さん記念館」と併設の「山田洋次ミュージアム」も見学。楽しい一日を過ごしました。

その時一番興奮したのが、この展示。

本物の『砂の器』の脚本! あの素晴らしい脚本が、この中に!
いや~、思いがけない遭遇に鼻息荒くスマホのシャッターを切りました。笑

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それでは、菅野かんの光亮みつあきさんによる名曲『宿命』を聴きながら、今回はお別れを。



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もり はるひ
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