エルメスの道
こんばんは。
エルメスのはじめての社史を手掛けた方が日本人ということをご存じでしょうか。
創業160周年のタイミングではじめてまとめられたエルメス唯一の社史が『エルメスの道』です。
初版から20年あまり経て、新版が発行されます。
世界的に有名なブランドであるエルメス。
驚くべきことに1997年に旧版が仕上がるまでは、フランス語で書かれた社史すらなかったといいます。
当時、エルメス5代目社長であるジャン・ルイ・デュマ・エルメスは、160年に渡る歴史を目に見える形でまとめたいと考えていました。
年に数回日本を訪れる機会のあった彼は、日本文化のひとつである漫画で表現すると面白いかも☆と思いついたとか。
そこで、著者選定にあたって出した条件があります。
「馬に乗れる人であり、馬を描ける人である」
今でこそ高級バッグのイメージが強いものの、創業時のエルメスは高級馬具の工房からスタートしたブランドです。
1837年、高級馬具を製作する工房をパリ9区で開業。
バーキンの原型にあたるバッグも元は馬の鞍を収めるための鞄です。
その後、馬車から車社会へと推移することに伴い、馬具以外にも事業を拡大したことで今日へ繋がります。
今では、馬具職人が始めたお店というイメージは薄くなっているものの、ロゴからも分かるように馬へのこだわりはいまだ健在。
エルメスの社史の著者に選ばれた竹宮惠子さんは、ご自身も乗馬をたしなみ、乗馬体験を描いた著作も有する方です。
白羽の矢が立ったものの当時の竹宮さんはエルメスにさほど関心はなかったようです。
しかし、原案を確認する中で、ブランドの歴史・職人のポリシーなどを目にしたことで、ご自身の創作活動と通じるものを感じ、携わることを決めたのだそうです。
出版社時代にいくつか携わったことがありますが、社史は定期的にまとめられていれば楽ですが、160年分をはじめてとりまとめるのはどれだけ大変であったことでしょうか。
実際に、完成後のインタビューで竹宮さんは「終わった時にはもうこれ以上はできない、と思いるくらい大変だった」と語るほど、資料集めや質疑応答は膨大な手間暇がかかったようです。
エルメスは最高の品物を用意しますが、それを御するのはお客様自身です
作品の中でロゴには馬と従者だけが描かれていて、御者がいない理由をこのように述べられています。
馬車を操るのは御者ではなく、持ち主自身であると。
人任せにせずに自身の信念に従って進む道を決める。
エルメスのブランドもまた、自動車が移動のメインになる時代の移り変わりの中で、事業の方向性を転換し、従来とは異なる顧客獲得を目指した歴史もあります。
卓越した技術を有しながらも、斜陽産業からの転換ができずに消えていくブランドも数多あります。
生き残るブランドは職人の腕、作品はもちろん、方向転換くらいでは揺らぐことのないブランドの哲学やポリシーが根底に息づいているように感じる。
最高の商品を提供するということがブランドの役割であるならば、ブランドに価値を見出し、享受するのは顧客。
100年以上続く企業には、自己の目先の利益だけに捉われず、顧客へ提供できる価値を追求し続ける姿勢も必要なのかもしれません。
ライターとしても選ばれ続けるだけの価値を提供できるように、できることは何か?そんなことを考えるきっかけになる一冊です。
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