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誕生日、エプロン、刺繍

高校生の時に付き合っていた子がいた。
誕生日に何をあげるか考えて、エプロンに刺繍をすることにした。

夏休みが始まってすぐ、ぼくはショッピングモールにエプロンを探しに行った。
いろんな店を回って、どれが似合うかなーって考えて、決めた。

それから刺繍糸を買わなくちゃいけなくて、お父さんに手芸用品店に連れて行ってもらった。
なんでそんなんかうの?とか聞かれないことを祈りながら。

それから、3日くらいかけて、親が仕事に行ってる間にせっせと針を通した。
その子の大切なひつじのぬいぐるみがポケットからこんにちわしてるデザインにした。
胸のところに名前も入れた。

なかなかいい感じにできて、ぼくは渡すのが楽しみになった。
でも誕生日はまだ2カ月くらいあとだ。

ある日お母さんとアジアンショップに行った時、かわいい人形のキーホルダーがあったから、それも買った。
おまけにミサンガも2つ。

これはお母さんがお金を出してくれた。
お母さんからのプレゼントということで。
彼女とお揃いって言ったら、お店の人は「いいねー、きっと喜んでくれるよ」って言ってくれた。

それから手紙も書いた。
手紙の内容は誕生日の3カ月以上も前から考えてメモに溜めてた。
早すぎるよ、ぼく。

今見るとたぶんなかなかきついと思う。
あの頃のぼくのことだから。
封筒には2人でブランコに乗る絵を書いた気がする。

誕生日の日はぼくは学校で、その子に会えない。
だから、その日に何かあげれるように、LINEのスタンプを作った。
それもひつじのぬいぐるみのやつ。

そして、待ちに待った誕生日が来て、ぼくはスタンプをプレゼントした。
よろこんでくれた。

それから2週間後くらいにその子の家に行った。
もうその時には、相手からぼくへの気持ちは前ほどの熱がなかった。
それでも、会えるのは楽しみだった。

ぼくが「今か明日どっちがいい?」って聞いて「今」って言ったから、渡した。
手紙を読んで、ちょっと苦しそうな笑顔で「ありがとうございます〜」って言った。

エプロンはその場で開けなかった。
ミサンガをぼくの手にひとつ結んでくれた。
もうひとつはわかんない。
キーホルダーもどうしたんだろう。

その2ヶ月後、ぼくたちは別れた。
結局、あの子がエプロンをつけている姿は見なかった。
なんなら開けた感想も。
開けたのかな、今もあるのかな。

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