ベートーヴェンを毎日聴く87(2020年3月27日)
『ベートーヴェン/ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.61』を聴いた。
ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲には「第〇番」というような番号が付いていない。
ということは唯一の作品ということになるのだが、実はボンに住んでいた頃にもうひとつ作曲しているので正確には2曲つくった、ということになる。
ベートーヴェンはピアノの名手ではあったものの、ヴァイオリンは得意ではなかったから、ということが考えられる。しかしベートーヴェンはボンのオーケストラでヴィオラを弾いていたのでヴァイオリンのことも良くわかっていたと思われる。
ヴァイオリン協奏曲は全体的に穏やかな雰囲気が漂う作品。「田園」も同じころの作品になるので、それと同類の雰囲気を感じる。
美しく優雅に、そして堂々と演奏されることが多かったため、わたしとしてはその雰囲気がちょっと物足らなくて、聴く機会はかなり少ない作品だった。チャイコフスキーやメンデルスゾーン、パガニーニと、ヴァイオリン協奏曲には激しく、華やかなテクニックが披露されるものが多くある。
しかし、現在の演奏ではかなり印象が異なるものが多くなってきた。古楽的なアプローチで演奏されると、「優雅」とは正反対の「刺激的」な印象に変わる。
そしてこの作品の面白いところは、カデンツァにいろいろなバージョンがあり、演奏者によってどのバージョンを取り上げるのか、が「当日のお愉しみ」になること。
「いろいろなバージョン」が存在する理由は、「ベートーヴェンが作っていないから」。
この作品、初演間際に完成され、独奏者は初見で見事に弾き切ったという。そのためカデンツァまで手が回らなかったのかもしれない。でも、もともとカデンツァはソリストの腕の見せ所となる「即興演奏」である。楽譜無しでソリストにお任せでも問題はないはず。でもすでに作曲されていた4つのピアノ協奏曲ではカデンツァを残しているのである。
また、この作品は後になってベートーヴェン自身によってピアノ協奏曲(第1番から第5番に含まれない、別のもの)に編曲されたのだが、そこにはカデンツァが残されている。と考えると、やはり手が回らなかった、ということは充分に考えられる。
後日、じっくり腰を据えて作った、ピアノ協奏曲版のカデンツァ。これがまたユニークなもの。カデンツァは基本的にソリストによる独奏だ。しかし、ティンパニが入ってくるのである。そしてとても長いもの。ベートーヴェンの革新的な考え。このバージョンを敢えてヴァイオリン協奏曲の演奏時に採用する演奏者も多くなっている。
さらにそれを進化させたバージョンも登場している。コパチンスカヤのソロは、チェロにヴァイオリンまで加わって室内楽が挟みこまれたようなものだ。コパチンスカヤ自身が手を加えたものであろう(カデンツァ部分は20分頃から始まる)。
※オーケストラは異なるが、CDも出している。
カデンツァも面白いが、演奏も古楽アプローチで刺激的、時に攻撃的である。美しく優雅な作品が、こうも変わるのかと驚く。
でも、このような演奏ばかり聴いていると、やはり飽きも来る。時々はおおらかに聴こえる演奏も聴きたくなる。この繰り返しが「底なし沼」のように、音楽の世界へと引きずりこんでいく。
Southern California Brass ConsortiumによるPixabayからの画像
(記:2020年11月22日)
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