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そういえば、自分の機嫌は自分で作るんだった。
今日のわたしは、朝から本当にダメだった。
早朝から、隣で眠るはずの我が子が覚醒。
耳元でず〜っと愛を囁かれていた。
「おかあさん、だいすきだよ」
「ねぇおかあさん、だいだいだ〜いすきだよ」
ありがと、うん。ありがとうね。
子どもからの愛にはできるだけ応えたくて寝ぼけながら抱きしめてみるけれど、今朝に限っては頻繁だったし回数も多かった。
もう、少しは放っておいてほしい。
思わず子どもに背を向けて少し微睡んだ後、無情にも起床時刻を知らせるアラームが鳴ったのだった。
怠い身体を引きずって、なんとか起き上がる。
寝る前にスマホを見すぎてしまったのが良くなかったのかもしれない。
でも、朝方にずっと念仏を唱えるように愛を囁かれるなんて思ってもみなかったから。
寝ぼけ眼で洗面所に入ったら、夫が子どもに諭してくれていた。
ありがとうね。今度、寝る場所変わってね。
*
基本は健康的な精神と肉体の持ち主なので、職場に出勤してしまえばいつも通りのテンションを保つことはできる。
隣の上司も今日は眠りが浅くて寝坊してしまったとぼやいていた。一緒に苦労を分かち合う。
その後が少し、ひどかった。
事情が事情なので詳細は伏せるけれど、職場のよくない話を聞くことになってしまったのだ。いわゆる、御局様が若い人をイビっている、みたいなやつ。
すごく嫌な話だけれど、精神科を有するわたしの勤務病院でもハラスメントとか嫌がらせみたいなことはあるのだ。人間って業が深い。
それこそ詳細は伏せまくるけれど、わたしも入職した直後にハラスメント被害に遭ったことがある。
ただ、勤務先は母体が大きな組織なのでハラスメント対策の部署が独立して存在しているので比較的対処はしてもらいやすい環境だとわたしは思っている。実際、相談してみたらかなりスムーズに話が運んだのでありがたかった。
でも、実際にハラスメントを受けた人にとってはそういう場所に相談をすること(=相手に注意喚起が行くかもしれないこと)はとても恐ろしいことである。いざ事態が動くとそんな恐れなんて何でもなかった、ということも多いのだけれど。渦中にいるときはとても恐ろしくて、不安でたまらないのだ。だからといってその場で生きているのもつらい。しんどい。辞めたくなる。本当は自分が辞める必要なんてないのに。
ハラスメントの話を聞くと、少しだけ自分の体験や記憶も蘇ってくる。
いくら心理職でトレーニングを受けているからと言っても、油断しているタイミングでその話が降りかかってくると、少しぐらぐらとする。
ぐっと、立て直す。
今のわたしは、もう大丈夫なわたし。
*
今日は元々のコンディションも絶好調ではなかったし、耳にした話も少ししんどかった。ハラスメントの被害にあった子ではなく、その周りでみていて一緒に傷ついていた子のケアもしていたから、やっぱり少し疲れてしまった。
でも、わたしは良い大人だから。
自分の機嫌は自分で作っていかないとけない。
そうやって自分を鼓舞しながら、院内のコンビニで元気が出そうなお菓子をむんずとつかんだ。
チョコレートのお菓子。とにかく自分自身を甘やかしてあげようと思って。
それから、大好きなジュース。この二つさえあれば何とかなる。
そう思っていたら横から先輩が悪い顔をしてポテチを手に取った。
チョコレートのお菓子と、ポテトチップス。
甘いとしょっぱい。最高の組み合わせだ。
結局、部署のみんなで分け合って仲良く食べた。だってその方が美味しいし、摂取カロリーも減るからね。
*
人間は、お互い傷つけあってしまう生き物なのかもしれない。
そして傷ついている人を見ては、また傷つく。
だけど傷を癒せるのも支え合えるのも、人間同士なんだと思う。
できる限りわたしは後者の人間関係の中にいたいし、そういう人間でありたい。
チョコレートを口いっぱいに頬張りながらそんなことを考えた。