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坂の途中から転がり落ちないために~ ~「上を向いてアルコール」小田嶋隆


自分が坂の途中にいるボールのような存在とイメージしてください。そして、ちょっと、後ろから押されて、そのはずみで、おととっ、、と前につんのめって、コロンと動き出して、そのままコロコロと転がって、そして、だんだん加速度がついて行って・・・と想像してください。

それが、一時的に酒をやめているアルコール中毒者の様子、だそうです。飲んでいないのは、坂の途中でただ、止まっているだけで、ほんのちょっと、ほんの一杯、というのは、坂の上から、後ろをポンと押されるようなもの、なんです。

なんてイメージしやすい表現、と思いました。

坂の下に待っているのは、荒れ地か、針山か、血の池地獄か、、、。一方、坂の上の雲の存在なんて、つかもうとしても、つかめないんでしょうね。

「アル中なんて、意思が弱い人がなるもの」「自分は関係ない」「大丈夫」「自分でやめられる」「休刊日があるから、自分はアル中ではない」・・・。そんなことはない、ということが、この1週間で読んだ、アルコール依存関連の4冊の本で分かりました。

だれもがなりうる、そして、自分は違うと否定する、認めたくない。そんな特徴がある、ということも理解しました。

アルコールは、コンビニにも並び、道端の自販機でも買え、店では1本100円ほどの小銭でも買えます。だからこそ、街を冷静に見ると、依存者にとっては誘惑だらけ。そして、依存症への落とし穴だらけ、にも見えます。

小田嶋さんの文章は、わかりやすく、依存症について説明してくれています。新鮮だったのは、理由があって酒を飲むのではなく、まず飲んでしまうこと。飲んでしまって、それにあれこれ、言い訳を考えるのだけど、飲んでしまうことが依存症への歩みであるということを指摘してくれています。依存症のハードルの低さを感じさせます。


治療への道として大事だと思ったのは、自分がいま、坂道の途中で留まっただけのボールのようなもので、非常に不安定で、不安な状態である、という認識を持つことだと思いました。転落の危険と隣り合わせで、何か、ひょんんなきっかけで転落すること。何より、依存症は決して治ることはない、という自覚を持つこと。そんな大切な心構えを教えてくれます。


少しでも自分が”酒に呑まれた”経験がある方、家族や知人にそんな人がいる方には、これ以上の転落が起きないと気づかせてくれる、参考になる本です。コラムニストの豊かな表現と経験談が一層、理解を深めさせてくれます。ことばが突き刺さるような本です。

依存症のひとには、迷いも悩みもあります。日々の暮らしの中で壁にぶつかったとき、坂道で転げ落ちそうになったとき、落とし穴にはまったとき、読んでもらいたいです。

2021年2月14日読了

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