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HAPPY TORTILLA
2019年1月16日 07:42
信じられないことに、ジョンは翌週にエストニアの彼女とオンラインでのやり取りを経て再会の約束を果たした。思い出を話したら、我慢できなくなったから連絡したと言っていた。清々しい顔の印象が、とてもよかった。ひとりの人として惹かれるのにも十分な相手だったのだろうけれども、2人はその音色やパフォーマンスに表れる本質的な部分で深く強く結び着いている。その熱や火花や、ときに痛みを伴うような化学反応までもが、美
2019年1月14日 11:37
スパイシーなグリルプレートを豪快にたいらげて、ジョンは言った。口元を拭いたペーパーナプキンを折りたたみながら。「さっきの話、プレッシャーとかそういうことじゃないからな」食事中は込み入った話題を中断する誠実さを、僕はとても好ましく思った。「褒められたら、っていう話だよね」「そう。プレッシャーは服みたいなもんだから、いつだって身体にくっついてるんだ。緊張感は嫌いじゃない」「強いね
2019年1月13日 18:23
ほんのりと檸檬の香る水。すっきりとした後味、透明な美味しさ。それを一気に飲み込んで、ジョンは言った。「はやく大人になりたかったよ、俺は」横顔の睫毛の長さ。その向こうに、忙しく注文を取ってキッチンに入るマスターがいる。バイトの女の子は、まだ帰省しているらしい。「大人に?」「子どもにはない自由がある」夏のライブで出会って以来、ジョンとはときどきこのカウンターで顔を合わせる。
2018年8月20日 08:07
古びた手摺をコンコンと叩きながら、海岸沿いの坂道を登る。ピーマンの収穫のバイトは、慣れた頃には終盤に差し掛かってきていた。先の予定が決まっていないことに違和感がなくなり、さて次はどうしようかなと余裕をもって構えていた。その余裕が、少し前の記憶を呼び起こさせたのかもしれない。ここに来るまえ、僕はWEBデザインの会社に勤めていた。案件ごとで稼ぐスタイルだったということもあって、時間の自由がわり
2018年7月9日 08:21
夕刻の海岸沿いを歩いて数分。古い木で造られた重い扉を開ける。ライブハウスとバーとカフェの合わさったようなその店の、カウンターの右から2番目が、僕の指定席だ。 「ドリップ、アイスで?」 背の高いマスター、いつも着心地の良さそうなエスニックの服を着ている。 「ううん、ラッシーで」 「めずらしいね、OK」 アボリジニアートを思わせる生地の柄が艶めかしく、ランプの灯りの下