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【論文要約】「デジタル森林浴」はストレス解消に効果あり!?

ストレスや不安を和らげる方法として、「森林浴」が有効であることは広く知られています。しかし、都市部での生活では実際に自然環境へ行くことが難しいのが実情です。

近年、バーチャルリアリティ(VR)を活用した「デジタル森林浴(Digital Shinrin-yoku)」が注目され、視覚・聴覚を通じて自然の癒し効果を再現する試みが進められています。
さらに、嗅覚を加えた「マルチセンサリーVR」は、より深い没入感とリラクゼーション効果を生み出す可能性があります。

本記事では、「Audio-visual-olfactory immersive digital nature exposure for stress and anxiety reduction: a systematic review on systems, outcomes, and challenges(2024)」をもとに、マルチセンサリーVRの効果と課題を紹介します。

研究の目的

本論文(システマティックレビュー)では、以下の3つのを研究目的としました。

このシステマティックレビューでは、以下の3つの主要なポイントについて調査が行われました。

  1. マルチセンサリーVR(視覚・聴覚・嗅覚)の構成と技術
    どのようなVRシステムが用いられ、どのような方法で嗅覚が取り入れられているか?

  2. 心理的および生理的な効果の検証
     VR環境がストレスや不安の軽減にどの程度寄与しているか?

  3. 課題と今後の展望
     研究の限界や、さらなる発展のために必要な技術やアプローチとは?

*システマティックレビュー(Systematic Review)とは、 「あるテーマについての研究をまとめて整理し、全体的な傾向を明らかにするもの」です。

研究の方法

論文の収集

  • PubMed

  • Science Direct

  • Web of Science

  • Scopus

  • Google Scholar

  • IEEE Xplore

などの主要なデータベースを用いて、2016年から2023年4月までに発表された論文を収集・分析しました。

検索キーワード

  • ストレス

  • 不安

  • リラクセーション

  • バーチャルリアリティ

  • 嗅覚

  • 生理学的指標

上記を検索キーワードとし、最終的に14件の研究が対象として選択しました。

選定基準

  • VR環境を使用し、視覚・聴覚・嗅覚のうち1つ以上を含むこと

  • 自然環境を模したVR(森・公園・海など)を使用したこと

  • 被験者が健康な成人であること

  • 心理的・生理的な指標を評価していること

除外基準

  • VRゲームを使用している

  • 被験者数が10名未満の研究

  • 自然環境ではないVR環境を使用した研究

研究結果

嗅覚を加えることで没入感が向上

森林の香りや花の香りをVR環境に加えることで、リラクゼーション効果が高まることがいくつかの研究で確認されました。

  • 視覚・聴覚のみのVR体験よりも、嗅覚・触覚を追加したVR環境のほうが、より深いリラクゼーション状態を引き起こすことが示されました。

  • VR環境に「木や草の香り」を追加したグループが、視覚・聴覚のみのグループに比べて不安レベルが有意に低下したことが確認されました。

生理的指標の変化(ストレス軽減効果)

  • VR環境に「オスマンサス(キンモクセイ)の香り」を追加したところ、血圧と皮膚コンダクタンスが低下し、リラックス効果が強まったことが確認されました。

  • 森林の香りを伴うVR環境が、心拍数の低下と副交感神経の活性化を促すことが示されました。

VRの没入感によるストレス軽減

自然環境を再現したVR体験が、ストレス軽減に有効であることを示していました。

  • 病院の医療従事者を対象に、VRを用いた「リラクゼーション空間」を提供し、ストレスレベルが約60%低下することが確認されました。

  • バーチャルな森林環境を視覚・聴覚・嗅覚で再現することで、ストレス回復が加速することが示されました。

今後の課題と展望

技術的な課題

現在のVRシステムでは、嗅覚の再現技術がまだ発展途上にあります。香りの持続時間や強度の調整が難しく、個々のユーザーの感覚に最適化する必要があることが課題となっています。

個人差の影響

嗅覚の効果は個人差が大きく、すべての人が同じようにリラックスできるわけではないことも指摘されました。今後の研究では、よりパーソナライズされた香りの選択や、個人の嗅覚感受性を考慮したVR環境の設計が求められます。

長期的な影響の調査不足

ほとんどの研究は短期間の実験に基づいており、長期間にわたるストレス軽減効果や持続性については十分に検証されていません。今後は、継続的なVRセッションがメンタルヘルスに与える影響を追跡する研究が必要です。

まとめ

本論文によると、視覚・聴覚だけでなく、嗅覚を取り入れたマルチセンサリーVRは、ストレスや不安の軽減に効果が期待できることが示唆されました。

特に、森林の香りや自然の音と組み合わせることで、より深い没入感が得られ、リラクゼーション効果が高まる可能性があります。

しかし、技術的な課題や研究の方法論的なばらつきも指摘されており、今後はより精緻な研究と技術の進歩が求められます。

都市部に住んでいても、VRを活用することで「バーチャル森林浴」を体験できる時代が訪れています。今後の発展に期待しつつ、ストレス対策の選択肢として、マルチセンサリーVRを活用するのも一つの方法かもしれません。

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