モノを売らない店、丸井が囲い込むD2Cブランド。
みなさんこんにちは。和田康彦です。
日本の小売店は近年、ネットの脅威にさらされています。そんな中、ネットに主戦場を移す百貨店の丸井は「売らない店」への転換で新境地を開こうとしています。いまなぜ、丸井は「売らない店」を目指すのか、同社の最近の動きをレポートします。
◆丸井が目指す「売らない店」戦略とは
丸井は店舗とEC(電子商取引)で役割を分担し、より買い物をしやすい消費体験を作る小売りの新潮流「売らない店舗」戦略を推し進めています。具体的には、デジタル技術を活用してショールーム機能を強化した「特化型店舗」に活路を見出しています。
その中でも、丸井が特に誘致に力を入れているのが、ここ最近注目されているD2Cブランドです。
◆丸井が考える、モノを売らない店が「安定収益源となる理由」
① 丸井は「モノからコトへ」と消費トレンドが移っていると捉え、2015年頃から事業モデルの転換に着手。
② モノを仕入れて販売する百貨店型から、飲食店などテナント賃料をベースとする不動産型・ショッピングセンター型に移行。
③ 次の戦略は、ショールーム機能などに特化した店舗や飲食店などで構成する「デジタル・ネイティブ・ストア=モノを売らない店」の実現です。
◆丸井 青井社長の考え方
「今やスマートフォンで、いつでも、どこでもモノを買うことができる。店舗で買うよりネットのほうがよほどスムース。その中で店舗はどのように生き残っていくのか。その答えの一つとして、店舗の役割を販売する場所から「体験する場所」へ変えている。」
◆丸井が誘致を進めるD2C(ダイレクトトゥコンシューマー)ブランドとは?
企業が消費者に直接商品を販売するD2C(ダイレクト・ツー・コンシューマー)スタートアップが次々と生まれています。
D2Cは、売り切りではなく、自社サイトにファンが集まる仕掛けを作り、顧客と長く付き合うのが特徴。顧客に商品企画やマーケティングに参加してもらい、商品の「モノ」とブランドをともに育てる体験の「コト」の両方を売るのが強みです。
D2Cは 、実店舗でモノが売れないウィズコロナ時代の新しい消費をけん引しようとしています。ただ最近では、消費者との接点をつくる目的で店舗を出す店も増加しています。
◆丸井が注力するD2Cブランドの代表「FABRIC TOKYO」
「FABRIC TOKYO」は、日本を代表するD2Cブランドで、全国に19店舗(2020年4月現在)内、丸井に6店舗展開しています。
ネット上でスーツやシャツをカスタムオーダーできるのが特徴で、オンラインとオフラインの店舗を統合したアパレル事業を展開。
「個々の体系に合ったぴったりしたスーツを着たい」というニーズを持つ、20-30代のビジネスパーソンが支持しています。
リアル店舗に出店する理由は、顧客に採寸してもらうほか、「サッカーが好き」といった趣味やライフスタイル情報、「スリムなパンツが好き」といった嗜好情報などをデータベース化するためです。(新規顧客開拓と顧客データ収集)
「FABRIC TOKYO」の森社長は「我々が手掛けるサービスはカスタマーエクスペリエンス(顧客が感じる心理的価値)を重視している。顧客との距離が短いのでダイレクトな訴求・情報交換できる」と語ります。
同社は15%の従業員がエンジニアのテクノロジーカンパニー。ECサイトや生産管理システム開発、データ分析など、事業を支えるシステムすべてを内製化しているのが強みです。
その結果、2020年4月には新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、「送って採寸」「自分で採寸」「ビデオ無料相談サービス」の3つのオンラインで採寸から購入まで完結する非接触型のサービスを開発しています。
◆丸井はシリコンバレーから来た「データを売る店」b8ta(ベータ)を誘致
2020年8月1日、新宿マルイ本館(東京・新宿)の1階にベータの第1号店がオープンしました。
テーブルの上には60センチ間隔で化粧品や電子ペンなどが並びます。その多くが無名のD2C製品。その場で買って持ち帰れるのは2割ほど。販売はネット経由がほとんどで、この店はあくまで商品の「発見と体験」に徹しています。
ベータが注目を集めるカラクリは、店の天井に設置された無数のカメラ。お客が入り口を通るとおおよその年齢層や性別が識別されます。店内の動線が記録され、商品の前で5秒以上立ち止まると「興味あり」と認識されます。お客の行動を分析したデータが出品者に送られる仕組みで、D2Cブランドは月30万円で一等地のリアル店舗に出品し、顧客の行動データも手にできます。
◆丸井が考える未来構想
丸井は、D2Cブランドの誘致によって商業施設をバラエティ豊かなものに変えていくために、2020年2月、D2C専門の投資会社を設立。出資とセットで出店を持ちかけています。
狙いは、大手一極集中のECの世界に多種多様なものを作って、面白いものにしていくこと。「デジタル・ネイティブ・ストア」と呼ぶ体験型店舗の割合を24年3月末までに60%にする目標を掲げています。「いずれは『全館売らないお店』をつくりたい」と語るのは青木社長。
モノを売らない店を目指す丸井とD2Cブランドの今後の動向を引き続きウオッチングしていきましょう。
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