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小説 『怒りにぶっかける発泡酒の苦さ』 ③ 散歩
いつもの散歩コース。
畑の向こうにそびえる高速道路は西の方に向かって伸びていて、一般道より綺麗に舗装されているであろうそのコンクリートの上をタイヤが一定のスピードで触れる音が「シャー」っと小気味よく聴こえてくる。
当たり前に西の方向に沈み始めている夕日が切れ長の雲と混じって、オレンジとピンクと赤のグラデーションを作り、色々な問題を抱えながら辛く苦しい労働を朝から晩までし続け、もうすぐ家路に着く街の人々を上から目線で褒め称えているようだった。
手元のリードの先には犬。毛並みは普通。中型で白黒の彼は畑脇にある雑草をはみながら足早に歩を進めるものの、時折心配そうに後ろを振り返り私の首元あたりを確認してくる愛しい奴。
リードを握る私。結局休みの日ってケータイ見てたら終わるよね、じゃあせめてもの罪滅ぼしに散歩でも行くか。
流動的でカラフルな夕日。ゴミな私を、その圧倒的豊かさで貶めて劣等感を抱かせる。
光量、配色、コントラスト、その突き抜けた個性を持ちながらも、どんな景色の中に居ようとその場に馴染んでしまうのってズルい。
憧れと嫉妬混じりの今の私の嗅覚では、その夕日の甘美な体臭まで嗅ぐことができた。