斉藤あや

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最近の記事

小説 『異国情緒も宵のうち』 ① 失恋と空港

「河北君、カナダの短期留学は絶対行きなよ?」  そうオレに言って来たのは、大学図書館内にある語学センターで働く田宮さんだ。彼女とは、TOEICテストの相談に乗ってもらうためによく会うので仲良くなっている。彼女は元々この大学の英語科の生徒で、要はオレの先輩だ。大学が提携を結んでいるカナダ・バンクーバーの大学に夏休みの間3週間参加出来る留学に、在学中2回も行ったのだそうだ。その後も、アメリカやヨーロッパを一人で旅したり、そのころからハマったというスカイダイビングをしに今でもハワ

    • ショートショート 『もすきーと』

      「ルルちゃんは?好きな俳優さんとかいる?」 「私わぁ」、目を右に向けるルル。 で、バーカウンターを挟んで彼女の左前方にいる俺の方を向き、照れ笑いを見せつけてくる。 「あいみんちゃんは?」 え、私に質問してくれるの?待ってましたとばかりにあいみんが視線をよこす。 俺が、グラスを右手で持つと二人が即座に俺の手先をみたが、おそらくそれは、右手の親指以外の指4本に太めのシルバーリングをつけていたからだが、 これを二人はどう捉えているのだろうか、攻めすぎて怖い?キモい? セクシー? ま

      • ショートショート 『裸のわたしとこんにちは』

        12232e3orhqiu4hruh34iqhriuq34ri4qi3rf34jnqirfqi34hrfiuhq34iufh34iuhjrfq;;;;;;;;;;;;;;;efe4ufeuihfiuahuei ”本気で思ってるのは、 自分を見つめた時に出てくるのが、貧しく醜いものだったとしても、豊かで美しいものだったとしても、 皆、本当に可愛くてカッコよくて愛らしくて素敵だから、自分を愛していいし、 今日この時まで生き抜いてきてるってことは、 本当にすごいレベルまで来

        • 映画感想 『ナミビアの砂漠』 2 リアリティの効用

          まだまだスルメのように良さが奥から出てくるなと思ったので、2回目の鑑賞のために再度近くのミニシアターに行ってきました。 2回目の鑑賞で一番気づくことができたのは、 主人公のカナの人格の精神年齢が思っていたより若い、ということだ。 前回観たにも関わらず、観終わった直後からだんだん忘れていたカナの感じ、というのは、「女子中学生の夏休み感」である。 注意散漫な感じや、ダラけ方や、猫背や、行くあての決まっていないような定まらない歩き方などは、 忙しない多動というより、むしろリラック

          映画感想『ナミビアの砂漠』 これが青春期

          ※ネタバレあり 私が住んでいるのは田舎なので、近くのミニシアターでようやく公開されて観てきました。 数ヶ月前にYouTubeにアップされた予告映像の時点でセンスがビンビンに伝わって来て、「タイプだ、、」とくらって楽しみにしていた映画です。 説明的なセリフや演出はほとんどなく、東京で生活する21歳のカナの生活をひたすらのぞき見する映画。 ナミビア共和国の砂漠にある、人口水飲み場に設置された定点カメラで撮影される水を飲みにくる動物の様子、を見ることができるライブ映像がYouT

          映画感想『ナミビアの砂漠』 これが青春期

          エッセイ 「ガハハ系」

           私は、人をカテゴライズして、そのカテゴリーに名前をつけるという性格の悪いところがある。でも、それは大体がその人たちの迷惑な要素につけることが多く、その人たちを小馬鹿にしてポップに昇華することで自分の感情をコントロールしようとする試みであるとも言えるので、必ずしも私のせいではない。  私が人の種類に名前をつけるようになったキッカケは、映画評論家、ラッパーの宇多丸さんがラジオで映画「冷たい熱帯魚」の評論をしている際に、でんでん演じる非道な連続殺人犯のことを「ガハハ系」と呼んで

          エッセイ 「ガハハ系」

          ショートショート 「某雑草」

           額に当たるカーテンの隙間から入る日差しが熱くて目を開ける。ベッドの上に転がっているケータイのボタンを押すと12時ちょうどだった。遠くから風に乗ってキーンコーンカーンコーンとどこかの小学校から給食の時間を告げるチャイムが聞こえる。もう2週間以上人と会っていないので、毎日小学校に通い集団に溶け込んでいる彼らの方がよっぽど社会的だと思った。社会性というエネルギーを孕むチャイムに恐怖を覚えながも私は給食を想像してしまい強烈な空腹を感じて部屋着と兼用の寝巻きのままのそりとベッドから降

          ショートショート 「某雑草」

          小説 『まともな人』 おしゃべりな男の子

           私がこの場所に転勤してきた初日に面白い子に会った。  人材派遣会社に入社した時から私はずっと人事部で、基本的な業務は、事務所で作業する委託業務員の人たちの管理をしたり、作業を手伝ったりすることだ。 「おはようございます。ツジと言います。この事務所での勤務は初めてなのでご指導よろしくお願いします」 このビルの全ての階が年金事務所になっていて、私が働いている会社に登録している委託業務員たちがここで作業をしている。私はその一階の管理をすることになり、合計三十名ほどがいるフロア

          小説 『まともな人』 おしゃべりな男の子

          ショートショート 『その女、ずぶ濡れにつき』

          夜になると月や星が見えて あなたの隣にはあなたを想う私の気持ちがあって 距離感を間違えて嫌われてしまいました 私はもっと仲良くなりたかったな 人としての格が違うと関わってはいけませんか あなたの踊っている姿が素敵です 気にするところと気にしないところが正反対ですね あなたが私を弱いと思っているように、私もあなたを弱いと思っています その服はどこで買いましたか 知らない方が好きでいれるかな 「すごい良かったです」 僕は、DJプレイをし終わり店の外に出てタバコを吸ってい

          ショートショート 『その女、ずぶ濡れにつき』

          ショートショート『ミスアンダースタンド』

          喜んでいた君の表情も 怒っていた君の無表情も 好きだから嫌味や不機嫌に対して辛抱強く振る舞ったこと 白い光をテーマにした手作りの写真集をもらって泣いたこと 柄にも無く映画館の一番後ろの席で頭を肩に乗せてきた 寝たのかと思った。って茶化したら、せっかく勇気出したのにってすねていた 海老の天ぷらを食べてる途中に、パスタが食べたいって。なんでそんなこと言うの 霧が濃く出た夜十二時過ぎ、等間隔で並ぶ街頭のせいで道がトンネルみたいだった 「今夜はノームがすごいですから、気をつけ

          ショートショート『ミスアンダースタンド』

          ショートショート 『僕の世界が香る日』

           みつきさんは、シュッとその純度の高いホワイトチョコみたいな色の肘をカウンターに乗せて二重まぶたを上手に使い数回瞬きをしたあとに、上目遣いでこちらを見て俺の眉間の辺りに焦点を合わせた。俺はもうその時点で実際にチョコを食べたときに活性化するのと同じ脳の部位が熱くなったため、甘い味がした気がした。直後、客席の上向きに開けた木枠の窓から厨房の換気扇に向かって、良く晴れた六月中旬の細長くて黄緑色の風が二本通ってそれらを鼻腔に感じながら、いつも通り裏切らない角度でカーブする彼女の頬は今

          ショートショート 『僕の世界が香る日』

          ショートショート 『アダルトチルドレン』

          気付かぬうちに変わっていく人格。もっと幼くなって、それどころか、マウントお化けに変身。何を問いかけても上の空。続かないLINE。Likeジョニー・マルコ。もう本当には何にも興味がない。目がヤギみたいに力無い。お前は孤独だから俺の方が上だ。俺みたいなやつと一緒にいる時点でお前も一緒だ。あいつは一生孤独で退屈な主婦だ。ああ、それは孤独だ。会社でアスペのおじさんをイジメてる。ちょうど良かったわ、そのうち殺してやろうと思ってたし。あいつが一番成功してる。俺たちは二十代で何もしてこなか

          ショートショート 『アダルトチルドレン』

          短編小説 『豊川海月希のハッピーライフ』

           海月希さんが取ってきた伝票を確認する。アクアパッツァ風パスタ。ちょうどこれから夏が始まるので昨日今日あたりから急に気温が上がり出したことと、南国を連想するアクアパッツァという名前に、海月希さんがとても似合っていると思った。 「ねえ。今日の夜はまかないじゃなくて、あの海沿いにできた新しいカフェ行かない?」 三組の客の相手が一段落した海月希さんが、カウンターにもたれかかりながら言った。まだ六月半ばだが、彼女はもう半袖黒色無地のオーバサイズTシャツを着ていて、そのこともアクアパッ

          短編小説 『豊川海月希のハッピーライフ』

          小説 『さみこのままで』

          ※過激な表現を含む 第一章 佐美子  本当は無理だとわかっているのに答えが出るまで諦めない人間は他の動物より頭が良いはずなのに動物と同じようにバカだ。私なんかは男と女両方イケるわけだから、二倍バカを見ることになるわけだけど特に今回は無理がある。彼女の名前は佐藤凛。彼女より優しい人は見たことがないし、人間不信だった私を救ってくれた恩人であり、趣味が豊富で、頭が良くて、可愛くて、酒飲みで、そしてストレートだ。当たり前だけど、女が好きな女が、女が好きな女を好きになるとは限らない

          小説 『さみこのままで』

          小説 『軽音部の先輩』

          「晴天の霹靂」 初めて彼女を見たのは、大学内にあるコンビニに行ったときだ。商品棚の間でとんでもない美女とすれ違った。 「え?」 思わず心の中でそう呟く。入学してからあんな美女は初めて見たし、幼く芋くさい連中しかいないことに慣れ初めていたオレにとっては青天の霹靂だった。  午前最後の講義が終わったので、オレはクラスメイトの川崎と藤谷と一緒に講義室を出た。 「なあ、けんちゃんはニックの講義何個取ってるの?」 そう聞いて来たのは愛媛から来た川崎だ。 「オレは二つとも取ってるよ」

          小説 『軽音部の先輩』