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小説 『怒りにぶっかける発泡酒の苦さ』 ⑧ 下ネタ

この店の店長が今日はショウくんとメインで話している。

店長は、私とまりなちゃんより5歳は年上で気も強い。彼女は、客がたくさんいても基本的に自分の話したい人と話す。
それを嫌がる人もいるし、逆に居心地が良いとその自由さを気に入っている客もいる。

私とまりなちゃんは、もう3回くらい入れ替わっている他の客の相手をしながら、夜の奥の方に迎えって行く。
店長が家から持ってきたピアノが狭い部屋の真ん中の壁沿いに置かれている。カウンター席に6人ほど、ボックス席もUの字型のソファにもう6人ほど座れるようになっていて、それらに満遍なく座った客は現在5人だ。

店の奥にあるトイレのドアが半開きになっている。今ボックス席に腕を広げて座りスーツを脱いでワイシャツ姿になっている40後半の男性が先程トイレを使った時に便座を上げたままだ。
ボックス席の客を担当しているまりなちゃんがその小柄な身体で割とガタイのいい男性二人に囲まれながら愛想良く笑っているのを見ると何か残酷な感じがした。

彼女は今日は薄いグレーのワンピースを着て、黒いストッキングを履いている。
私にはワンピースからのぞく彼女の形の良い胸の谷間よりも、ストッキングの曲げられた膝部分の肌色が増していることの方がいやらしく見えた。

天井近くにかけられたT V画面でドラマが流れているけど、私はそのどの俳優にも見覚えがなかった。
T V画面の下に3段ある赤い棚にはアルコールボトルが並べられていて、罰ゲーム用に置いてあるアルコール度数99%のスピリタスのボトルの肩には少し埃がかかっている。

まりなちゃん今彼氏いないんだ?
いないですよ。もう結構。
なんでいないの?
こういう店で働いてたらお客さんとキャストの皆しか関わりないんですよ
酔っ払ったお客さんが、机の上にハイボールをこぼしたので、まりなちゃんが私におしぼり取って、と目配せした。

え、じゃあ一人でしたりするの?
何をですか?
エッチだよ
えー。それは恥ずかしいです
何この子。さっきめっちゃ下ネタ言ってたじゃん
私はおしぼりをボックス席まで持っていき、まりなちゃんと一緒にローテーブルの上を拭きながら、私はめっちゃしますよ。と教えてあげた。

おもちゃとか使うの?
バイブ5個くらい持ってます。
バイブと聞いて、お客さんの目がキョドり恥ずかしがりだしたので、私の勝ちだと思った。自分から仕掛けてきたのにダッサ。

ショウくんはまだ店長とカウンター奥の席で話している。店長は今日開店してから6本目のハイライトに火をつけて、煙をショウくんの顔に吐き出して戯れている。さすがに店長とショウくんがどうにかなることはないと思うけど、でも二人が素な感じで笑い合っているのを見るとちゃんと嫉妬した。

古いビルの3階にあるこの店には、細長い部屋の奥の壁に窓が二つしかない。
そこからは、今日の夜が見えて、空に星は見えない。窓の隅の方に、店の正面に面した道路右側の角にあるビルの窓が見え、中の廊下に黄色っぽい照明がついているのが見えた。
あの建物はビジネスホテルだったと思う。照明の色味含めレトロな感じが気に入り、この嫉妬心の腹いせに今日の帰りには家に帰らずにあそこに泊まってみようと思った。





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