【詩】幼年期
ぼくたちはあの頃、手を繋いで、まるでひとつになったかのように、どこまでも行けるような気がした。きみが「秘密だよ」と笑いながら言うから、ぼくたちの嘘はきっと嘘じゃなくて済んで、大事に大事に守られている宝石みたいに綺麗な秘密になった。そして、「きみは覚えていますか?あの日のことを」なんて言ってみると、あの日世界にいたのは、ぼくたち、たったふたりだけだったような気さえしてきて、あのとき、きみの目に映っていたのも、紛うことなきぼくだけだったような気がしてくる。
でも本当は。
秘密が尊いのは、それが秘密ではないからなのだ、ぼくたちはすべて知られている上で、ぜんぶを許されていて、周りの誰もがぼくたちのことを余すことなく知っていたのだ、そう気付いてしまったその日から、秘密は嘘に成り代わり、今度はぼくが、ぼくより幼い誰かの秘密を知らんぷりして、知らないと嘘を吐いて、でもぼくは、そうするしかなかったのだった。
ふたりだけの世界なんて有り得ない、ぼくより早く気が付いたきみがぼくの目の前から消えて、ぼくだけが幼年期のなかに置いていかれたまま。今日も秘密に憧れ、ぼくは嘘を吐き、きっとそのあいだに、きみの思い出から、ぼくが消えた。