【詩】蒸発する夢

シャワーを浴びて、身体のありとあらゆる汚れが洗い流されていって、そのたびにわたしは綺麗な自分に生まれ変わることができるのだと、そんな風に思えなくなったのはいったいいつからだろう。
そしてもはや生まれ変わる必要もないと口で言ってしまうくらいに落ちぶれたわたしは、今日も綺麗なものに眉を顰めて、綺麗でないものに冗長な言葉を付け加えて肯定する。みんなそれぞれいいところがあるだなんて能天気な言葉に吐き気を催しながらも、気づかぬうちにそれはわたしの心のよりどころとなり、そこでやっとわたしは、自分が否定したいものすらろくに否定できないことに気が付くのだった。
そして、どうやっても目が離せずに綺麗なものに見惚れるような自分もいて、言葉で何と言おうが確かに生まれ変わりを望んでいるような自分もいて、結局最後には、自分のなかにある幽かな希望に駆られて、わたしはひとりシャワーを浴びるのだった。
理想の自分というものが、いつしか逆行した自分になるだなんて想像もしなかった幼少期、夢は、夢のままで語ることが許されているものだったと、わたしはシャワーを浴びながら思い出す。
向上心なんて湯気と一緒に蒸発してしまえばいいのに。
わたしの夢は、シャワーの水で身体のぜんぶが洗われて、すべての不純物が排水溝に流れていって、そのまま十歳のわたしになることです。




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