【詩】希死念慮
夜空に広がる星々が綺麗に思えるのも、真昼の空に広がる青空が綺麗に思えるのも、遠くにいるかもしれない誰かが綺麗に思えるのも、すべては抽象的だから。ぜんぶがぜんぶとてつもなく遠くにあって、具体性に欠けているから。見たくないものを見なくて済んで、それで、あなたの綺麗だと思うものは綺麗なのですよ。綺麗なものには必ず理由があり、あなたの切望するような死という存在は、抽象性を孕んでいるからこそ綺麗なのです。
常に辞書を持ち歩いていて、それをいつも読み上げるように喋る癖に、わたしのことを何もかも見通したように言ってくるあなたは、今日もそんな風に断言する。わたし、実は知ってるんです。あなたは「綺麗」という言葉の意味すらも辞書で調べてしまうような人なんだって。テレビで放送される社会問題を、社会問題としてしか見れない人なんだって。ああ、あなたなんて、わたしの投げ捨てた辞書で頭を打って死ねばいい。
でもきっと、あなたは死なないだろうから、わたしは辞書を捨てました。あなたはずっと注釈だらけの小説でも読んで、満足していてください。わたしはひとり海の底に沈んでいきたい、空の上に浮かんでいたい、いや、本当はどこでもないどこかに行きたい。ああ、わたしは、あなたとはどうしようもなく別の世界に行きたい。
いつかそのときが来たら、きっとあなたの辞書のなかにわたしがいるよ。
調べてみてください、「希死念慮」と。それでもきっと、あなたはわたしのことが一生分からない。