【詩】駅と蝉時雨
蝉が一斉に鳴き始めるのを聞いて、わたしは、人が行き交う大きな駅の構内の光景を思い出す。
わたしは駅構内にひとり立ち尽くしていた。だからわたしも、そのとき、紛うことなきその光景の一部だった。そうしてその光景はいつまで経ってもなんら変わりないように見えるのだけれど、実際それは不変ではなくて、自動販売機の中身が入れ替わるのと同じくらい頻繁に移り変わっていくのだ、それは至極当たり前のことであるはずなのに、他人事のようにしか思えないわたしは、すぐにそのことを忘れてしまうのだった。
けれど、だからなんだっていうんだ
160円出して買った緑茶は喉を潤していった。瞬間瞬間で細胞が入れ替わっていくのと同じように、ぜんぶがぜんぶ、所詮は替えが利くものだから。だから、互換性なんて程度の差にすぎないんだよ。ごみ箱にペットボトルを捨てた。また、別の自動販売機でもう一本の緑茶を買った。
駅を出ると、灼き尽くすような太陽が差し込んで、同時に数多の蝉の声が降ってくるように聞こえてくる。
蝉が飛び回る、人が動き回る、雲が晴れて太陽が照り付ける。
ああ。なんだか、夏は、発情期みたいだ。
そうしてわたしはまた景色に溶け込んでいく。
いつしか、わたしが代替品にすり替えられる、そんな未来を想像した。