マキタの掃除機と本場の小籠包
職場で使っていたダイソンの掃除機が寿命を迎えたので、職権を濫用してマキタの掃除機に買い替えた。
家で使っているのとまったく同じものを会社用にも買ったので、連続稼働時間などが会社で使うにはもの足りなかったらどうしようとちょっとだけ心配していたけれど杞憂であった。めちゃくちゃ広いというわけでもなく、かといって劇的に狭いというわけでもなく、はたまたうなぎの寝床のような不自然に細長くて使いにくいというわけでもない、ごくごく一般的な広さと形状の事務所全体の床に掃除機をかけて回る15分~20分、その程度ならばバッテリーが切れることもなく、なんならちょっと共用の廊下まで飛び出して掃除機をかける日もあるくらい。吸引力も十分で、ゴミを捨てるのも簡単。申し分のないスペックである。ちなみに事務所の床の素材はカーペット、いわゆる絨毯であることを申し添えておく。
昨日、前に同じ職場で一緒に働いていた人と食事をした。わたしがその職場を退職した後に、その方も他の会社へ転職されていたのだけれど、彼女の転職先の会社が令和のこの時代に耳を疑うほど昭和な社風で驚いた。
1)始業時間の1時間前に出社
毎朝、始業時間の30分前から幹部たちが会議を始めるので、それまでに会議室を含む事務所全体を清掃する必要があるためとのこと。清掃は1時間もかからず終わってしまうので、清掃が終わったらパソコンに向かって業務を始める流れになるそうなのだけれど、まだ始業前だよ?そもそも始業前から会議をするな。毎日するな。会議をするのは勝手だけれど、その前に清掃を済ませておくことを求めるな。聞き取り調査の結果、その会社の床の素材は塩化ビニルであることが判明したので、念のため申し添えておく。
2)定時になっても帰れない
一緒に働いている頃から、毎日定時で帰ることを目標に仕事を進めていた要領の良い彼女のこと。もちろん初日から定時で帰る気満々でいたのに、定時になり、とうに仕事は終わっているのに退社できる雰囲気ではなく、入社したその日からずっと毎日1~2時間の残業が当たり前なのだそう。直属の上司が「じゃあ、そろそろ帰りましょう。」と言うのが退社していいよの合図で、それまではやることもないのに会社にいなくてはならないという苦行。
3)固定残業代という罠
始業の1時間前に出社させられて、毎日1~2時間の無駄な残業を強いられて、それでも時間外手当は一切出ないらしい。なぜならば固定残業代を支払っているからというのが理由らしい。固定残業代は怖い。
4)社員旅行という地獄
年に2回社員旅行があるらしい。自己負担はゼロらしい。その会社だけバブルが崩壊しなかったのかな。始業の1時間前に出社すること、毎日1~2時間の残業をすることを当然に受け入れている人たちと行く旅行、想像するだけで地獄である。入社してすぐに社員旅行があり、彼女は昭和な社風に戸惑いながら、辞めるタイミングをうかがいながら、強制的に社員旅行にも参加させられたらしい。伊勢志摩に行ったらしい。伊勢志摩には気の置けない人とのんびり楽しく行きたいよう。2回目の社員旅行は、どうしても外せない予定を理由に不参加を申し出たらしい。3回目の社員旅行の不参加の理由を考える必要はもうないらしい。なぜならば、すでに彼女は退職をしたからである。おめでとう。そんな会社、辞めて正解だよ!
これまでの人生で一度だけ社員旅行に行ったことがある。行き先は台湾。そもそもわたしは求人票に「社員旅行」の文字を見つけたら応募先の候補から迷わず外し、会社のホームページなどで社員旅行っぽい写真をみつけたらそれも迷わず応募先の候補から外してきたので、社員旅行という憂鬱を知らずに生きていくはずだったのに、10年以上も前、入社した会社がたまたまその時、設立10周年というタイミングで、毎年の社員旅行はないけれど10周年の記念に臨時の社員旅行が企画され、社員旅行を避けて慎重に生きてきたわたしの人生に「晴天の霹靂社員旅行」が勃発したのである。台湾は悪くなかった。自己負担4万円で(入社して間もなくだったので、旅行から帰ってきた翌月から毎月2,000円を給与から天引きされた。他の社員はほとんどが会社設立当初からのいわゆる創業メンバーで、10周年の豪華旅行に備えて何年も前からコツコツ旅行積立金を積み立てており、10万円だったか15万円だったかがすでに貯まっていたらしい。わたしは善意の新入社員としてかなり配慮されたらしい。ここでいう善意とは、社員旅行を知らずに入社してしまったという意味である。)、リッチなホテルに宿泊したり、おなかがはちきれるほど小籠包を堪能したり、九份を散策したり、故宮博物院に行ったり、すっかり台湾を満喫してしまった。わたしのたった一度の社員旅行の記憶。
これから先も絶対に社員旅行には行きたくない。そもそも社員旅行を福利厚生と位置付ける考え方を嫌悪しているのかもしれない。わたしが福利厚生に求めることは、なにを差し置いてもまずは社員を不当に拘束しないことである。始業の10分くらい前に会社について、仕事が終われば定時でさくっと帰る、社員旅行というものがないからそもそも不参加の理由を考える必要もない、そんな今の働き方がわたしにはとても合っているようなのである。