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ニカモトハンナ
2016年5月16日 00:57
幼いころ、実家の屋上には温室があって、祖父が胡蝶蘭を育てていた。両親や祖母はめったに上がってこなかったけれど、私は屋上に出る重い扉をこっそり開けて、よく温室を覗きに行った。外から見るとただの透明な部屋なのに、中に入ると、むわっと暑い湿気に襲われる。肌にはすぐに水滴がこびりついてきて、自分の体がこの小さな空間に飲み込まれて溶けていくような気がした。庭とも家の中とも違う温室の匂いは、それま
2016年5月16日 00:53
京大近くの吉田山をくだって、森を抜ける。猫の抜け道みたいな隙間を抜けると、急に視界が広がる坂道。坂の途中からのぞむその屋上には、少し傾いた屋根がひょこっと顔を出していて、洗濯物が干してあった。柱と屋根のシンプルな構造物が、風の抜けるひとつの部屋をつくっている。まわりにフェンスが設置されているわけではないけれど、多分、屋上の下の屋根の部分が少し盛り上がって低い塀をつくっていて、絶妙な高さ
2016年5月2日 01:42
ベッドは、ひとつの世界。見えないうすーい膜が、この身体ひとつ分のまわりをぐるっと囲んで、外の空気をすり抜けさせながら、ちょうどいいひとりぼっちにさせてくれる。部屋は、外から見ればただの箱。何もない空間に内と外を作り出す装置。でもそれは内と外をそれぞれ遮断する役割なのではなくて、自分のこの身体を地面に立たせるための、ちょうどいい距離をはかる、ものさしみたいなものなのだと思う。誰かの肌に触れ