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実績よりも“面白そう”で選んだ建築会社 セルフビルドで作った初めての新築戸建て

新築をDIYするってほんとにできるの?ちょっと壁塗りする程度でしょう?私自身もそう思っていました。でも、プロと一緒のDIYだったら大工さながらのことまでできちゃうんです。特に新築の場合、ゼロからスタートできるので、自分たちで“世界に一つだけ”のオリジナリティに溢れた家を作れます。
2021年に結成10周年を迎えたハンディハウスプロジェクトの連載シリーズ。第6回目は、2016年に新築戸建て住宅を自らが手を動かし作り上げた、オーナー桶矢さんご夫婦と、ハンディの中田製作所メンバーの対談です。【ハンディハウスプロジェクト10周年インタビュー vol.6】

桶矢さんご夫妻(写真 右から2番目、3番目)
桶矢さんは、中田製作所が毎年開いている海の家で食事提供を行う飲食店の共同経営者。そのご縁で、新築の自宅建築を依頼。DIYはほぼ未経験だが、自分の家は自分で作ってみたいと自らの手を動かして家づくりを行った。
妻のかおりさんと2人のお子さんと4人暮らし。かおりさんは、1歳の娘(当時)と暮らす中、子どもとともに安心して暮らすことができる解放感と木のぬくもりを感じられる家を希望。家族全員でDIY参加をした。

中田裕一(写真 左から2番目)
HandiHouse projectの創業メンバー。株式会社中田製作所 一級建築士事務所 代表。神奈川県湘南エリアに根ざし地域に密着したもの作りを展開している。最近はタイニーハウスやキッチンカー、サウナ小屋など製作に興味あり。楽しさを求めて日々活動中!

中田 理恵(写真 左から3番目)
2013年、HandiHouse projec参画。省エネ建築診断士。
東日本大震災後のプロボノをきっかけに、エコハウスDIYに目覚める。2016年よりgreenz エコハウスDIYクラスにて講師。2019年より「タイニーハウスフェスティバル」企画運営。2013年より、逗子海岸にて海の家「SeasideLiving」 企画設計施工運営。

浅井 廉(写真 右から1番目)
2019年、中田製作所入社、HandiHouse project参画。最高の家づくりは、妄想から打ち上げまで。その過程を体験すると、世界が変わる。自分の住まいが大きく変わって、自分の感覚も大きく変わる。浅井自身が毎日その実感をしているからこそ、たくさんの人に広めていきたいと考えている。

呉 英里子(写真 左から1番目)
2021年、中田製作所入社、HandiHouse project参画。オーナーさんと共にものづくり、場づくりをしていきたいと思いHandihouseprojectに参画。建築からまちづくりまで興味をもちながら、その場所や人ならではの空間作りを探求。ルーツである台湾でも仕事ができたらいいなと妄想中。

HandiHouse project(ハンディハウスプロジェクト)
「どんな家にしようか」という最初の妄想から作る過程まで、プロジェクトオーナー(施主)と、一緒に作業をしながら家づくりを楽しむ。そんな“施主参加型の家づくり”を提案する。設計から施工まで、すべてメンバーが自分たちで行っている。

新築物件を初めて担当する建築家に依頼!理由は“面白そうだったから”

理恵:うわー!時間が立って、すごくいい感じのおうちになりましたね。

裕一:ほんと味が出てきて良くなってきたね。

桶矢さん:住み心地いいですよ。

かおりさん:さっちゃん(娘)がお友達に、さっちゃんのおうちは木のおうちって話して回ってるんですよ。

理恵:それすごく嬉しい。確かに木のおうちですもんね。

“木のおうち”と娘さんが呼ぶ、特徴的な外観

当時、中田裕一と理恵は、中田製作所を設立し、HandiHouse projectをメンバーと立ち上げてから3年目。桶矢さんの住宅が、初めての新築案件だった。

ーーハンディにお願いしたのはどうしてだったんですか?

桶矢さん:家を建てたいと思っていたときに、中田さんたちがやっていた海の家で知り合いました。最初におうちをお願いしたときのことよく覚えてますよ。中田さんに「新築の一戸建てって作れるんですか?」って聞いたら、「たぶんできるよ」って言われた(笑)

一同:(笑)

桶矢さん:じゃあできるんだって思いましたね。あそこで厳しいって言われてたら、頼んでいなかったかもしれない。

理恵:一番目の新築物件のクライアントに自らなってくれた。ありがとうございます!

ーー新築が未経験だった点は、不安はなかったんですか?

桶矢さん:まあ不安もありましたけど、ハンディがやってることが面白そうだったので、「面白い」を優先しました。ハウスメーカーも見に行ったりしましたけど、面白くなかったので。ハウスメーカーの担当者にも言われましたよ。未経験の会社に頼むのは絶対危ないよって(笑)

理恵:メーカーの安心安全は大きいですもんね。

ーーかおりさんは不安とかはなかったんですか?

かおりさん:一緒に海の家をやってる方に頼もうと思ってるんだって夫から聞いて、「あ、そうなんだ」って(笑)。会ってみて、年齢が自分たちと近かったので、お話しやすいのと、好みも合う感じだったので、いいなと思いました。

リビングで遊ぶ子どもを眺めながらキッチンに立てるようになり、気が楽になったと話すかおりさん

住まい手には細かいこともとことん要望を聞く だって自分の家なんだから

ーー新築建てるのって、楽しそうですね。

桶矢さん:楽しかったですよ、フルオーダーなんで。でも、すごく決めるとこが多いこともわかって、中田さんたちすごく大変だろうなって思いました。一つひとつ、何センチにするか、長さを決めていってたので。

理恵:結構桶矢さんに、細かい希望まで聞きましたよね。

桶矢さん:そうなんですよ。でも、ここ3センチでいいですか?って言われても全然わからなくて。自分の希望するもののイメージがわかないのが一番大変だったかなって思いますね。

理恵:3センチくらいって言われてもわからないですよね。最近はオーナーさんを困らせないように、細かいところを聞きすぎないようにしてますが(笑)桶矢さんのおうちは、初めての新築案件だったこともあって、ほんとに全部において聞いてました。

裕一:ここ桶矢さんに聞く必要ないんじゃないかっていうところまで聞いてました。
新築のほうが、リノベーションと比べて決めなきゃいけないものがいっぱいあって、それをあるタイミングまでに決めて発注しないと間に合わなくなっちゃったりするので、工程管理が大変になってきますね。
でも、オーナーさんにはギリギリまで悩んで、なるべく自分たちで決めてもらいたいっていう思いがあるんです。なるべく色んな材料ややり方を見せて、その中からオーナーさんたちで決めてくれたほうがいいなって思っています。どんなにちっちゃいことでも。

理恵:裕一があまりにもオーナーさんに聞きすぎるので、一度喧嘩したことがあります(笑)オーナーさんにめっちゃ負担かけてるよって止めました。でも裕一は、聞きたいって言うんです。

ーー色々聞かれる側としてはどうでした?

桶矢さん:基本的には、プロにお任せしたかったです(笑)家とか作ったことがない素人なので、プロにお任せしたほうが良い家ができるだろうなって思っていました。

かおりさん:中田さんが良いと思うようにしてくださいって言ってたよね。

理恵:それなのに聞く、みたいな。

裕一:どうしても僕たちにお任せスタイルになっちゃうと、住む人が考えるっていうことがなくなっちゃうじゃないですか。ハンディとしては、自分の家をつくるんだから、わからないなりに、少しでも自分の家のことを知ってほしいと思っています。家づくりの現場っていうのは、家のことを深く知るチャンス。考えたことによって、自分の家になじんでいけると思っています。僕の家ではないので、住む人にどうしたいのかを悩んでほしかった。そういう思いでも聞いてました。こんなことも自分たちが考えなきゃいけないの?って桶矢さんたちは思ったかもしれないけど、それが考えるきっかけになったらいいなと思う。

タイルの一つひとつも、桶矢さん夫婦と中田製作所が一緒に選びにいった
少しでも部屋を広く活用できるように、リビングからベランダは一続きに
ベランダは外から見えないようにしたため、プライベート空間になっている

ーー家づくりの過程で考えたことが、今活かされているって思うことはありますか?

かおりさん:“好きものに囲まれてる”みたいな感じで暮らせていますね。一つひとつ悩んで自分たちで決めたので。

裕一:かおりさんとは、仕上げの質感とか、色見とか、色んなことを一緒に決めましたよね。
通常、ハウスメーカーなどでは、全部仕上がりを決めてから工事をスタートすることが多いです。そうなると、何もない状態でオーナーさんは想像もしにくいし、細かい部分は選べないんですよね。それが、現場でペンキの色など細かい点が決まっていくから、想像もしやすくなる。工事中に現場に来たりしながら決めるのが住む人にとっても楽しめると思っています。

現場での打ち合わせ風景

理恵:キッチンの高さとか、洗面台の高さとか、図面で決めたものを、実際に現場で測って大きさを確認してもらったりね。

かおりさん:ドアとかも、塗るか塗らないか、もう少し暗めの色にするのかこのままにするかとか話しましたね。それがすごくよかった。

ーー出来上がってからは言いづらいですしね。

裕一:作っている途中で言い合えるのは大事ですね。設計に最初からあったわけじゃないものも生まれたりしたよね。

桶矢さん:階段の手すりも変わったよね。階段の最後の段まで手すりがある状態で工事はスタートしたけど、最後は短くしてもらった。

下から3段目までは、手すりがなくショートカットして降りられるようになっている

桶矢さん:それも作っている途中で気づいたんだよね。現場で、階段を行き来しているうちに、手すりは途中までのほうがいいって思った。

ーー現場にいたからわかったことですね。

理恵:桶矢さんに言われて、「じゃあそうしましょう!」ってすぐ変更できましたよね。
桶矢さんが現場に来ていなかったら、気づかなかった。
オーナーさんに現場に来てもらっていたほうが、私たちが気づけないことを気づいてもらうことも多いです。工事中に対処したほうが、完成してから変更するよりも良いので、なるべく住む人には現場に来てほしいですね。

裕一:そうそう、完成してから壊して作り直すほうが、倍くらい時間がかかるので!

パパは大工さん!?素人でもプロと一緒なら家をつくれる

一番右が桶矢さん。あらかじめ刻んだ土台、柱、梁や小屋材などの主要な構造材を現場で組み立てる、建方(上棟工事)にも参加した

ーーDIYのレベルを超えた工事にもがっつり参加したんですよね。自分で希望したんですか?

桶矢さん:そうですね。自分ができる部分はやってみたいって思ってました。

ーーもともとDIYとか興味があったんですか?

桶矢さん:もともとDIYするタイプではなかったのですが、自分の家だからやってみたいっていうのはありましたね。

ーー簡単でした?難しかったですか?

理恵:いや、簡単ではなかったはず(笑)。梁にペンキつけちゃったりもしたしね。

桶矢さん:でも、まあいいか、自分ちだしって(笑)。すごく楽しかったです。

ーー自分の手を動かしてつくった家は、住んでみてどうですか?

桶矢さん:今もときどき思い出しますね。この裏はこうなってたなとか、ここ自分で作ったなとか、誰が作業したところだなとか。

かおりさん:さっちゃん(娘)も時々話しますよ。

理恵:え?覚えてるんですか?2歳前くらいでしたよね?

かおりさん:さっちゃんが掃除したんだよねーって。あのとき、2階にあがって掃除していたよね。

理恵:覚えてるんだ!びっくりして鳥肌がたちました。それは嬉しい!

ーー娘さんも、よっぽど印象的だったっていうことですね。

記念に娘さんの手形も入れた。娘さんは、今もこのことを覚えている

かおりさん:子どももお父さんが手伝って作った家っていうのが結構嬉しいみたいです。

理恵:へーー!

裕一:さっちゃんがそれを見ていたわけだからね。お父さんも工事を一緒にやってて、お父さんが作った家だって思ってくれているんだね。

建築家として初めての新築戸建て 

ーー中田製作所にとって、初めての新築。どうでした?

裕一:ものすごい大きなチャンスをもらえて今でも感謝してます。ハンディはオーナーさんと一緒に作ることを大事にしてますが、新築を一から一緒につくるなんてもっと面白いなってワクワクしました。建方(上棟工事)って、何もないところから、木材をプラモデルみたいに組み立てていく作業なんですが、オーナーさんも一緒にできました。これはハンディにとってもすごいことだと思う。

ーー桶矢さんと施主参加型で新築を作ることができて、中田製作所のその後は変わりました?

裕一:実績と目的、体験っていうのを、自分はすごく大事にしています。考えていることだけじゃなくて、やりたいなと思ってもやれるかやれないかで大きく変わる。自分の中で、新築へのハードルが高かったんですけど、桶矢さんのおうちをやらせてもらったときに、僕も一緒に体験させてもらって、できるなっていう確信になりました。

裕一(写真左)と一緒に壁塗りを行う桶矢さん(写真右)

裕一:オーナーさんに体験させてもらって次に繋がるっていうのは、全てにおいてハンディの活動の中でずっと続いてるんですよね。タイル貼りもそうだし、左官工事もそうだし。普通だったら専門の職人さんに任せるところを、オーナーさんと一緒にやってみて、できるという確信に変わって、次のお客さんにも提案できていけている。今回は、新築でも一緒に家をつくれるっていう確信になった。
桶矢さんちをきっかけにできる範囲が広がって、この6年でどんどん発展していけました。

理恵:一軒建てられたら、2、3軒ぽんぽんと続いた。おかげさまで(笑)

桶矢さん:狙い通り(笑)。

ーー中田製作所チームの成長を見守るみたいな存在になってますね。

桶矢さん:第一号になれたのが誇りです。

裕一:成長させていただきました。きっかけがあるとそのまま先にいけちゃうね。

DIY参加したその後 今でもパパは“プチ大工さん”

浅井:僕からも質問してもいいですか?一緒に作業する中で、一番印象に残った工事ってありますか?

桶矢さん:ペンキ塗りは意外と簡単なんだなって思いました。雑になってもきれいに仕上がることがわかった。パテは難しい…。

理恵:住み始めた後に、外壁塗ってくれてましたよね。インスタで知りました!

裕一:メンテナンスでやってたよね。塗った場所がきれいになってる。

理恵:外壁を塗るのはさすがにハードルが高いからびっくりした!

桶矢さん:ああ、ハードル高いんですか(笑)!

理恵:塗っちゃいけない部分をマスキングしてカバーするとかも、経験がないと絶対わからないと思うのでやっててすごい。

桶矢さん:作っている様子も見ていたので、こういうふうに作るだっていうの現場で学んで、実際に自分もちょっと作ってみたいなって興味もわき出しました。テレビ台は自分で作りましたし、あと廃材で娘にテーブルを作ってあげました。

廃材で作った娘さんのテーブル

理恵:かわいいテーブル。

桶矢さん:たぶん参加型じゃなかったら、こういうのは作ってなかったですね。

浅井:そういうこともやらせるの?みたいなことありました?

桶矢さん:油?

裕一:最後に塗ったワックスだね。これはメンテナンスで、自分でもやることになると思ったので、一緒に作業して覚えてもらいました。

英里子:オーナさんがやってみたい希望を聞くというよりも、こちらから提案してやってもらったんですか?

理恵:そうだった。基本的にはお客さんのほうは、どの作業を自分でできるのかわからないと思うので。

裕一:こっちから提案しないとね。

2021年にハンディに参画した英里子

英里子:お子さんたちが大きくなってきて、これまでのことを振り返るときに、家づくりのことを振り返って話してみる時間はあったりしますか?

かおりさん:寝るときとかあるよね。

桶矢さん:子どもが聞いてくることが多い。ここお父さん作ったんだよねーって。定期的に聞いてきます。

一同:定期的に!?(笑)

ーーおうちを作れるパパなんて、かっこいいですね。

ハンディで最も若手建築家の人数が多い、中田製作所チーム

HandiHouse projectは、個人事業主の集まり。各チーム代表の下で、若手建築家の育成を行う。現在、中田製作所チームの20代若手建築家は浅井、絵里子を合わせて4人。

ーーハンディの中で、中田製作所チームが一番若いメンバーが多いですよね。

裕一:バイトや学生も参加してくれてるので多いですね。若い子たちが僕たちの活動に興味を持ってくれるっていうのはすごい嬉しいですよね。僕たちが、作ることにちゃんと楽しさを見出して、それが「かっこいい」とか、「面白いよね」っていうのを若い子たちが思ってくれている。設計だけじゃなくて、現場のことも、どろ臭くて大変だけど、それをいいなと思って来てくれる子たちがいるのはすごい嬉しい。

ーー面白いだけじゃなくて、若い子たちが魅かれるような“かっこよさ”も考えていかなきゃいけないってことですね。

裕一:そう思わないといけないですよね。恰好のよさだけでいくのも面白くないし、大変ですよ。日々楽しみながら悩んでいます(笑)

ーー若い人たちにどんどんハンディの活動に参加してもらって、全国にハンディの文化を広げていきたいですね。今日はありがとうございました!


どんな建築家にも、設計や施工で“初めて”は必ず訪れる。そんなときに、受け身ではなく自分で自分の家を作りたいと手をあげてくれるプロジェクトオーナーさんがいれば、建築家もオーナーさんの思いで背中を押され、新たな境地に一歩前進できる。HandiHouse projectのメンバーも、そういったオーナーさんの存在に恵まれたからこそ、大きく成長してきたんだなと感じさせられるお話でした。若手建築家のみんなにも、ともに家づくりを楽しめるオーナーさんとの出会いがあったらいいなと思います。

取材・文 石垣藍子

※桶矢さんのおうちについて詳しくはこちら

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