私たちの絶望と祈り/読了2023
過去5年くらいまともに活字が読める感じではなかったのが今年は毎月読めたので、月ごとに読んだ本のまとめ。感想は殆どツイッターからの再録。
January/
山内マリコ『あのこは貴族』
2022年のうちから「2023年の初めに読む本はこれ」と思い、取り寄せた本。
問いは「私が私として生きられる場所はどこか?」ということだと思うけれど、葛藤が浅くていろんな社会課題をつまみ食いするような展開なのでちょっと肩透かしな感じもした。もっと多層的で複雑なテーマだと考えているからかもしれない。/tweet(1)
でも「日本は格差社会なんじゃなくて、昔からずっと変わらず、階級社会だったんだ。」のくだりは本当にそうと思ったな。と同時に日本という国をこどもの頃からヘイトしてなお「アメリカだけには行けない、生きていける気がしない」と考えてきた私は骨の髄まで日本人なんだろうなと。/tweet(2)
階級を忌嫌いながらも階級の中で生きてきたからそれがなくなったときにどう立ち振る舞えばいいのか、私の身一つで闘わねばならない心許さみたいなものというか、たとえばそれはスクールカーストにうんざりしながらも社会に出てなお社内の力学を常に読もうとする私の態度、みたいな。/tweet(3)
おまえは恵まれているからだ!と上をみて僻んでいるほうが簡単なんだよな。/tweet(4)
わかりあえないなと諦める私のほうこそが先に壁を築いている。まあそれはそれとして東京と地方で「格差」があるのは本当のことですし社会問題だと思っているので均されなければならない場所は確実に存在してそれに無自覚なのはやはりどうかと思う。/tweet(5)引用あり
川上未映子『乳と卵』
川上未映子を読んだことがなかったので、本屋でこの本が一番薄かったから選んだ。短いけれど鮮烈な一話。
February/
金原ひとみ『アタラクシア』
今まで読んだ金原ひとみの中で一番難しかった……。ラストの荒木は唐突すぎて面食らったけど実際そんなものなんだろうな。そうだなんかいつも「現実ってこんなものだよね」というのを砂を噛むような気持ちで読み終わってる気がする、ミーツがさわやかな終わりな気がしてきた。/tweet(1)
安堂ホセ『ジャクソンひとり』
面白くて一気に読んだ。次々とフォーカスされる人間が変わっていく描写に街中ですれ違うたびに次の人へ興味が移り変わっていく感覚に陥った。軽やかな文体で重たいし苦しい。不思議で、だけどリアル。面白い。何回でも読める。何回でも繰り返し考える。/tweet(1)
「君の名は。」のくだり面白くて笑っちゃった、私が新海誠好きじゃないからかもしれない。でもそのまま繰り出される漫画への言及はクリーンヒットだったし私はそれでも漫画を楽しむだろうけど、表現については考えたいなあ。/tweet(2)
三浦しをん『舟を編む』
オススメしていただいて読んだ。
いま私がモヤモヤしていることがどんぴしゃで書かれていて、読むタイミングだったんだなあとしみじみ……。本の巡り合せってあるよね。/tweet(1)
岩崎亜矢『心ゆさぶる広告コピー その言葉は、あなたの人生とつながっている』
岡本欣也『ステートメント宣言。』
宣伝会議の講座で勉強していたのでそのときに自主的に読んだ2冊。
March/
水野学『センスは知識からはじまる』
読んだ!ステートメント講座や「舟を編む」と通じるところのある本だった、つまり私は知識の集積をするべき。/tweet(1)
最果タヒ『死んでしまう系のぼくらに』
初めての最果タヒ詩集。雑誌のエッセイとか展示会とかでは読んでいたのだが影響を受けたくなくて今までしっかり読んだことがなかった。そんなことをしていたら刺さる歳を超えてしまったらしい。
April/
小霜和也『ここらで広告コピーの本当の話をします。』
それなりに実務的な内容。物言いがどことなく居丈高で感じが悪く、読み物としては今年一番面白くなかったな。マイワーストブックオブザイヤー。先に読んだ岡本欣也と水野学の2冊合わせて読めば十分だと思う。
May/
金原ひとみ『デクリネゾン』
こちらはマイベストブックオブザイヤー。圧倒的。
面白さや好き度でいったらミーツ・ザ・ワールドなんだけどいままでで一番共感性が高かった。終盤はつよく共感して泣いた。そしてめちゃくちゃ食う。みんな言ってるけどめちゃくちゃ食う。本能的な食事じみていた。/tweet(1)
June/
アンドレ・ジッド『地の糧』
ヨルシカの力によって復刊されたので購入。一度読んだけれど飲み込めていないのでまたたまに時々開きたいと思っている。
July/
西加奈子『うつくしい人』
体感的に知っている風景だったので読みやすくてするっと読んだ。他者のまなざしを内在化しこうはなりたくないという気持ちが本来の自分自身を打ち消す、それが生きづらさになる、みたいな話。するっと終わった。もっとこじれているのが普通では、という印象。/tweet(1)
家族の愛憎の業の深さを表面的に撫ぜただけになってるけど、瀬戸内には行きたくなったので自分にさまよっている人が読むにはいいかも。瀬戸内には行きたくなる。とても。/tweet(2)
August/
若林正恭『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』
タイトルからすごくいいんだけど、中身もすごくよかった。旅の中で自分と世界を整理して自分にできる言語化を一つ一つ丁寧にやっていく。日々や人生の「何で?」をなおざりにしない誠実さに心を打たれた。/tweet(1)
ここよかったなというポイントはいくつかあるんだけど、一番好きなのはモンゴルのご夫婦をみて「こういうありかたなら結婚したい」と考えるところ。日本の世間で眺める結婚には全然ピンとこず、良さもわからず、だった人が、この人たちの"結婚"というつながりに美しさを見出すくだりが本当によかった。/tweet(2)
児玉雨子『##NAME##』
思春期に二次創作が拠り所になる、夜中にスマホで読み耽る、みたいな仕草は本当に私の思春期とダダ被りしていたが、それにしたって主人公はじめ登場人物のだれひとりも好きになれなくて逆にすごいなって感じだった。/tweet(1)
女児の児童ポルノを語るにあたって男性がマネージャー以外はみんな「大衆」として世界の外側に置かれていることに私は納得できなかったし、でもそうして腹を立てることは踏み躙られた者の内心を推し量ることなく「なぜ怒らないのか」と糾弾する尾沢への不快感とも重なり、嫌な本だな、と思った。/tweet(2)
「みさ」と「ゆき」の小さな世界はアニメや漫画で夢見るシスターフッドのそれで、もはやそれは主人公の妄想であったのではと思うくらいなのだけど。同じ「オタクであることが救済であり絶望」という視座で読むなら圧倒的に「推し、燃ゆ」や「ミーツ・ザ・ワールド」に軍配が上がるなという印象。/tweet(3)
作品に機能する要素として児童ポルノを消費している、というか。題材として描いているけどその先の解、や接続する社会がないまま終わることに個人的にはすごくモヤるし、何が描きたかったん?みたいな怒りが湧いてしまうんだよな。これって社会問題じゃん、主人公の選択やみさの結末は解じゃねーんだよ。/tweet(4)
推し燃ゆは生きづらさや個人の内面のフォーカスで終わってもまあそうなんよな、という感じだったけど、これは個人の問題に矮小化して収束させる話だったんだろうか?/tweet(5)
いやなんか、私、怒ってるな、怒ってるかも……。/tweet(6)
でも怒ることにより私の裡にあるのは尾沢なんだよという意識も湧き。本人が声を上げないのならば他者が怒りを表明することは正しくないのか、たとえばそれは外野が秋元康の歌詞を糾弾すること、ジャニーズの問題を指摘することは正しくないのかなどを考えたり。/tweet(7)
社会的正義がかならず個人を救済するわけではないけれど、社会的正義が機能することによって少なくとも後世の搾取からは彼ら彼女らを救済できる可能性はあるわけで、とかぐるぐる考え、やっぱりあまり好きな本ではなかったと思う。/tweet(8)
幼い頃から消費されること、結果として世界に馴染めないことが「私とは誰なのか」というのが ##NAME## なわけだけど、まともに傷ついてどうする、いや、まともに傷ついていいんだよ、私たちはまともに傷ついていいんだ。/tweet(9)
うるせえ!私たちはまともに傷ついていいんだ!/tweet(10)
自分だと認識できる名前を得ることでようやく怒ることができる、怒りに名前がつくことは重要なことなんだ。/tweet(11)
September/
金原ひとみ『アンソーシャル ディスタンス』
中学生の私が知ってる金原ひとみだったし読みながらすでにコロナ禍自粛真っ只中の記憶が失われつつあるの恐ろしいなと思いコロナ禍文学は定期的に読みたい気持ち、整形の想像するのめちゃくちゃ苦手なのでデバッガー恐怖しかなかった。/tweet(1)
竹田ダニエル『世界と私のA to Z』
めちゃくちゃ「そうだなあ……!」と頷く章もあればそれはどうなんだろうかと思う章もあり。
第6章「仕事とは、パーソナルなものだ。」から続くいくつかのパラグラフ、それです!!!!!!!て叫びたくなってしまった。それです。"dream job"という概念自体が空虚、本当にそれですそれ。ミレニアル世代だけど本書で語られるZ世代的価値観、わかりみが過ぎる。/tweet(1)
第7章も面白かった。「引き寄せに託された希望」の分析は実体験としてあぁ〜と思ったし、やっぱり昨今の行き過ぎた自己責任論はよく考える必要があるよね。/tweet(2)
児島令子『私、誰の人生もうらやましくないわ。ー児島令子コピー集め-』
コピーライティングの参考に。
October/
原田マハ『リボルバー』
ゴッホにもゴーギャンにも興味を持たないまま今日まで生きてきたので来歴を知れて面白かった、けど、暗幕のゲルニカのような小説としてのスリリングさはないので、ゴッホとゴーギャンに思い入れがあるとそんなロマンがあったら素敵ね、と思える内容だった。/tweet(1)
November/
金原ひとみ『腹を空かせた勇者ども』
2023年に読んだ金原4冊目ぎりぎり11月。いままで読んできた物語を娘目線でという感じ、淡白そうに見える母親の、それでもなんかこう、愛のまなざしを感じる瞬間が多々あって、それは金原が母親だからなのか私が相応の大人になったからなのかと考えていた。/tweet(1)
私はれなとは真逆の中学時代だったので序盤は結構物語と距離がある感じがした。例えば駿が腹を立てる場面とかはほんそれよれなの無神経さなんなの?と思ったりもしたけど、でも中高の私はれなのような無神経さで人を傷つけたこともあほほどあったしこれは大人の目だなと考えたりなぞもし、記憶と感覚は改鼠されてゆくものだなあと。/tweet(2)
岩崎俊一『幸福を見つめるコピー』
コピーの本色々集めてきたけど岩崎俊一さんのこれがいちばんすきかもしれない、もっと早く辿り着けばよかった。/tweet(1)
December/
井奥陽子『近代美学入門』
読みやすくてわかりやすかった〜崇高の概念は初めて遭遇した気がする?いやどこかで読んだかもしれないが……(鳥頭)歴史の文脈のなかで立体的・複合的に語ってもらえると飲み込みが早くなるので助かる。/tweet(1)
歴史の文脈におかれると理解が加速度的にあがるの、10代の私がいかに熱心に世界史に取り組んできたのかそれが血肉になっているかが実感できて学び続けるというのはよい……としみじみする。/tweet(2)
ブレイディみかこ『私労働小説 ザ・シット・ジョブ』
エッセンシャルワーカーではないが非正規として散々自分の報われなさにぶちギレて喚いてきた私にはあまりにも共感するところが多い小説だったし、他方心のどこかで「私はまだマシだ」と底辺争いをする卑しさを見出さずにはおれずつらかった。/tweet(1)
私たちの報われなさ、惨めさ、屈辱はその立場にならないかぎり伝わらないのだと嫌というほど味わってきて、この本もたぶん読者の何割かは自己責任に帰結しているだろうと思うしそのことにまた強い感情を覚えたりもするが、後書きのとおりにこの状況が変わってゆく潮目にいるのだと信じたい。/tweet(2)
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年末年始は岡真理『ガザに地下鉄が走る日』を読んでいます。