はやく怠け者になりた〜い! | 水木しげる「水木サンの幸福論」 【夏の読書感想文 #1】
怠け者になりなさい。
そうでかでかと書いてあるのを見て、如何に効率的に仕事と家事を捌くかを必死に考えていた私は面食らった。
しかもそれを言ったのは、あの!「ゲゲゲの鬼太郎」の生みの親・水木しげる先生!
そしてそう言われてみれば、水木しげる先生の「睡眠力=幸福力」のマンガが以前バズってたな?!
えーっ!どういうことー?!
(cv.うちの長男坊)
長男がつないでくれた、"水木サン"との出会い
現在我が家の長男2歳は、「ゲゲゲの鬼太郎」「悪魔くん」に夢中である。
どちらもかの有名な水木しげる先生の作品だ。
この歳で「鬼太郎」と再会することになろうとは。そして、妖怪についてこんなに勉強することになろうとは。
不思議な巡り合わせのもと、たまたま水木しげる先生について学んでいたとき、「幸福の7か条」というのを知った。
幸福の7か条
第一条 成功や栄誉や勝ち負けを目的に、ことを行ってはいけない。
第二条 しないではいられないことをし続けなさい。
第三条 他人との比較ではない、あくまで自分の楽しさを追及すべし。
第四条 好きの力を信じる。
第五条 才能と収入は別、努力は人を裏切ると心得よ。
第六条 怠け者になりなさい。
第七条 目に見えない世界を信じる。
早く怠け者になりた〜〜〜い!!!
※「早く人間になりたーい!」は「妖怪人●ベム」です。鬼太郎とは関係ありません。笑
なんのために生まれて、なにをして喜ぶ?と自問自答(←そしてこれはアン●ンマン)
日々悩み、苦しみ、どうやったら楽しく生きられるか?ワーママ生活にヘロヘロになっていた私の心にめちゃくちゃ沁みた。
沁みまくった私、「幸福の7か条」それぞれにどんな想いがこもっているのかを知りたくなり、早速手に取ったのはこの本である。
水木しげる「水木サンの幸福論」
水木しげる先生は、自分のことを「水木サン」と自称していた。それにあやかり、私も親しみと尊敬を込めて、水木しげる先生のことを以下「水木サン」と呼称していく。
本書、その半分以上は水木サンの「私の履歴書」(自伝)である。
「幸福の7か条」についてずっと説いているという訳ではないのはご注意願いたいのだが……でも、この「履歴書」を読んでから見る「幸福の7か条」は、もっとずっと、いいものだ。
絵画にステータス全振りできた、環境と「好きの力」
幼少期、一年遅れて小学校に入るくらいのんびりおっとりだった水木サン(この時代の1年遅れて入学できるくらいゆるい感じ、いいよね)
勉強はからきし、遊んでばかりだった水木サン。
でも、絵と作文と体育はとってもとっても得意だったそう。
父はそんな水木サンに、絵が好きなら、その力を伸ばしなさいと、絵の具や画材を買い与えたという。
そしてなんと、13歳の時に油絵の個展を開く!
さらにそれが新聞社の取材も受け、「天才少年画家現る!」という見出しもついて、水木サンは絵に対する自信を強めた。
小さいころから紙と鉛筆かクレヨンがあれば、絵を描いて飽きなかった。惨憺たる小学校の成績表の中で図画と体育だけは光っていた。似顔絵や風景のほか、妖怪の絵も想像で描いた。冒険物語を紙芝居にして級友に喜ばれたこともある。
「こいつはアホかもしれない」と心配していた父も、この特技を伸ばそうとして小学校の高学年になると、水彩や油絵の道具を買ってくれた。
「遊んでないで勉強しろ!」ではなく、得意を伸ばせと伝えて、さらにそこに投資する。
親としてそうありたいと頭では思っているけれど、なかなかできることじゃないよね……
結果的に水木サンは絵で「食い切った」わけだが、絵を頑張ったからといってそれが成功するかも、食っていけるほどの力なのかも、当然わからない。不安定of不安定。
しかしてここで、「幸福の7か条」を振り返ってみてほしい。
第一条 成功や栄誉や勝ち負けを目的に、ことを行ってはいけない。
第五条 才能と収入は別、努力は人を裏切ると心得よ。
食ってけるかとか、金になるかとか、成功できるかとか、そういう発想自体がナンセンスなのだ。
私もひとりの「今時の人」で、多くの人がきっとそうで、将来を思えばこそ、「成功できるか?」っていうことを考えちゃうんだよなぁ。
自分のこれまでの生き方もだけど、親として子どもたちにどのように関わっていくか?も考えさせられたよ……。
「好きな道だからつらくても頑張れる」くらい「好き」って、「相当好き」よ
さて、じゃあ「成功するかわからんがとにかく好きなことに投資して、やればいいのか」というと勿論そういうわけではない。
「幸福の7か条」には、「好きなこと」について以下のようなことが挙がっている。
第二条 しないではいられないことをし続けなさい。
第三条 他人との比較ではない、あくまで自分の楽しさを追及すべし。
第四条 好きの力を信じる。
ああ、「好きを仕事にしなさい」的なこと?好きなことなんだから、つらくても成功できなくても努力できるよねって私も最初見たとき思った。
まぁ概ねそうなんだけど(そうなのかよ)
思ってた100000倍くらい、血生臭かった。
水木サンの話は、好きなものだから頑張れる!夢は必ず叶う!圧倒的成長!的な、そんなキラキラしたもんじゃなかった。
このあたりは是非、興味をもった人は本を読むか、水木サンの来歴を調べて見てみてほしいのでざっくり。
水木サンの、なまけてられない壮絶な青春時代
戦争の激化で徴兵された水木サン。いくつもの幸運が重なって生きて帰ることができたが、左腕を失ってしまう。
そこからは、毎日を生きていくのに必死。ずっとずっと貧乏で、ひたすら絵を描いていた。
40歳で「鬼太郎」シリーズがヒットしたあたりから、今度は人気漫画家として目の回るような毎日。忙しすぎてご飯を食べる時間も寝る時間も削って働いていたという……
え……「怠け者」はどこへ……?!
「ベビイ」(水木サンは子どものことをこのように言う)のころから、楽しく、のんびり、過ごしていたいと「ずっと思っていた」。
でもそれを許さない、時世。貧乏。
からの今度は多忙。
「怠け者」だなんて、「幸福の7か条」に入っているくらいだから、ずっとそうやって生きてきたんだ、それが幸せの秘訣なのだろうと思ったら、めちゃくちゃ的外れだった。
「怠け者」でありたいとは思っていたけど、ずっとそれができないまま走り続けていた人の言葉なのだ。
そしてだからこそ、「どうやってなまけるか」「幸福とはなにか」について、水木サンはずっとずっと考えてきたのであった。
そう、つまり、これは訓戒。
沢山の経験を経た水木サンの、人生の結論だ。
それをわかってから、私たちは「幸福の7か条」を見るべきだ。決して、単なる「成功者の成功の秘訣」ではない。血と汗と涙がびっちりこびりついた7つの訓戒だよこれは。
泣く子はいるか 悪い子いるか そぉ~っと 手招きしてる
そんな水木サンの人生を見ていると、「天の神様のおぼしめしって本当にあるんだなぁ」というのも、思う。明らかに「道がひらけてる」ってくらい、運が良く話が運ぶことが、たびたびある。
第七条 目に見えない世界を信じる。
私はふだん「目に見えない世界」は信じていない。でも、本書を読み終えて、「本当にあるのかも」って思った(元来の単純な性質のせいもあるかもしれないけど!)
水木サンがあげている「地獄や極楽、妖怪、精霊、憑き物」も含めて、「見えないけれども、あるんだよ」っていうものへの発想が、心をワクワク楽しくしてくれるガソリンになる。
そして、「彼ら」が、人間たちの行いを見て、それぞれの道に「こっちだよー!」と導いてくれているのかもしれない。そんなふうに思ったりしたヨ。
「あの世」にいらっしゃる水木サンへ。妖怪好きの息子をもつ母より。
水木サン、はじめまして。
鬼太郎と妖怪と悪魔くんにハマっている2歳児の母です。うちのベビイがお世話になっております。
先日も「ご飯食べて、髪の毛針を出す!」「悪い妖怪をやっつける!」と言いながらご飯をぺろりと食べました。
写真館での記念撮影も「ぬらりひょんみたいな服で頑張る!」「リモコン下駄はく!」と和装で頑張って撮れました。
妖怪様様、鬼太郎様様でございます。
いつも本当にありがとうございます。
2歳の子が妖怪の名前をずらずらとあげ、特徴まで誦じ、果ては「悪魔」「メフィスト」「エロイムエッサイム」と唱えている姿を、水木サンにもお見せしたいくらいです。毎日なかなか愉快です。
まだしばらくはこちらにいる予定ですが、いつかあの世でお会いできたら嬉しいです。
それでは。
余談というか、大好きな「努力」の話
第五条 才能と収入は別、努力は人を裏切ると心得よ。
あの、ここ、「努力は人を裏切る」というのが入っているのが、個人的に興奮するポイントです。
普段から「努力フェチ」!コツコツ努力するのが大好き!と公言している私だが、「努力=成功」とは全く思っていない。「報われない努力のほうが多い」と思っている。
なので、こういう一言が入っているとなんかちょっと嬉しくなっちゃう。
(水木サンの来歴を読めば如何に努力が報われてないかがハッキリわかるので、それを知ってから見ると興奮したり嬉しくなってる場合ではないのですが。漫画家さんって本当にシビアな世界ですね……)
自分の好きなことを自分のペースで進めていても、努力しなくちゃ食えん、というキビシイ現実があります。それに、努力しても結果はなかなか思い通りにはならない。だから、たまにはなまけないとやっていけないのが人間です。
うんうん、そうだよね。なまけるのも大事よね。なんて都合よく解釈しようとした人いませんか?(はい、私です)
このあと「ただし、若いときはなまけてはだめです!」が続くよ。まぁそうですよね、へへ……。
実際、水木サンの大繁忙期を支えたのは、下積み時代に作り出したキャラクターや作品たち。積み重ねてきた「好き」の気持ちと努力が、水木サンを助けたのだ……すごい。本当にすごい。
やはり「好きを仕事にする」というのは通りいっぺんには行かない。「好き」の力を燃やせる人にしか、「好き」で食ってく道は開けないのだ。
だからこそ、「好きの力を信じる」「自分の楽しさを追求」「しないではいられないことを続ける」。
そういう、邁進できる、心を燃やせるものに出会えた人こそ、道を選んで突き進めた者は「幸運だ」って、水木サンは言うんだなぁ。
さ、怠け者界のエリートになるべく、「しないではいられないこと」を好きに続けてみようかな。それで成功できるかは置いといて。
好きなことだから、好きな道だからと、楽しく歩いていく先で、「見えない世界」の不思議な力が私を導いてくれるかもしれないからね。
もちろん、睡眠はなるべく8時間取りながらね。
無理せず、頑張っていきましょう。
はやく怠け者になりたぁ〜い!
(追記 「見えない世界」とは書きましたが、まだ小さいかわいい息子と、愛する夫がおりまして、あの世行きの幽霊電車はいましばらく、待っていてくださると幸いです)
おあとがよろしいようで。
長男の愛読書。ほぼ毎晩、読み聞かせはコレ。
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猪狩はな 💙@hana_so14