欲張りとクリームソーダ
クリームソーダは魔法の飲み物なのかもしれない。
クリームソーダとはメロンソーダの上にバニラアイスを乗せた飲み物である。よくファミレスのお子様ランチなどにセットで付いてきたのを覚えている人もいるのではないだろうか。近年、これが妙にブームらしく、インスタグラムやツイッターではレトロな喫茶店の綺麗なメロンソーダの写真をよく見かける。
クリームソーダの姿やここでの簡単な説明を見て「自宅でも簡単に作れそう」と思った方もおられるのではないだろうか。実際その通りで、グラスにメロンソーダを注ぎ、その上に市販のバニラアイスをひとすくい乗せればすぐに出来上がる。だが、メロンソーダをまるで喫茶店で出されるもののように綺麗に、作りたいとなると話は別だ。
お店やインスタグラムで見られる「あの」メロンソーダを作るには少々コツがいる。そのコツとはただ一つ、「欲張らないこと」だ。
あのようにソーダの上でアイスの形をそのまま綺麗に残すには、メロンソーダの中に含まれる氷の上にアイスを乗せなくてはならない。つまり、内容量を増やそうと欲張って氷を入れずにソーダを注ぎ、その上に直にアイスを乗せると「地獄」を見るのだ。氷を入れずに、アイスを直に乗せた瞬間、ソーダのシュワシュワとした泡に当てられたアイスはゴボゴボと溶け始め、気づけば姿を消してしまう。そして最終的に残るのは薄緑に濁ったソーダだけ。メロンソーダ+バニラアイスという点では口に含んだ味は我々の想像する「クリームソーダ」となんら変わらない。しかし、その姿は我々の想像する「クリームソーダ」ではないだろう。
クリームソーダはあのメロンソーダの透き通る緑とその中でシュワシュワと揺れる泡、そして白くもったりとした濃厚なバニラアイスが上にちょこんと乗っている様(薄ピンクの缶詰のさくらんぼがあれば尚良し)がここまで人を惹きつける魅力の最たるものなのだろう。味だってもちろん大きな魅力だ。ツンと刺すようなサイダーにその痛みを優しく包むバニラの柔らかな甘みが口の中に広がる、そんな飲み物はクリームソーダだけなのだから。だが、あの見た目は味をも凌駕する魅力を持っている。透き通ったソーダの先にいつかの夏を思い出させる懐かしさを含み、緑と白のコントラストが心を躍らせる。
ただ、そんな姿を見たかったら決して欲張ってはいけない。まるで童話に出てくる魔法の飲み物のように「心の綺麗な」「欲張ることを知らない」そんな人の前にしか姿を見せないのだ。私たちはこれからも、いつまでも、メロンソーダという「魔法の飲み物」に魅せられるのだろう。
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