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早春の空より降りそそぐ幸せのピンク。城南宮の枝垂れ梅と常照皇寺の老桜。

 地べたにしゃがみ込んで、枝の内側から見上げると、薄紅色の花がシャワーのように降りそそぐ。鼻の奥にツンとくる、甘くて、ちょっと狂おしい香り。まだ冷たい空気が居座る3月だけれど、まるで天国にいるような、幸せな薄紅色の世界。 

 城南宮は「方除けの大社」といわれ、家を新築する時には、ここの清めの御砂を敷地に撒いて穢れを祓う。広大な敷地に造られた神苑では、源氏物語に登場する花が四季折々に開花し、特に素晴らしいのが、およそ150本の枝垂れ梅が一斉に咲く「春の山」というエリア。薄紅色と白の花が、それはもう、枝からこぼれんばかりです。

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 甘い香りに誘われて、メジロがやって来る。抹茶色の小さなこの鳥は、目のまわりが白くて黒い縁どりがあり、いつも忍者ハットリくんを思い出す。よく見ると、ちゃんと一羽一羽、顔が違います。忙しくさえずりながら、あっちの枝からこっちの枝へ。アクロバティックな体制で、器用に蜜をついばむ姿を、惜しげなく見せてくれる。たまに数十羽のメジロが、バッと同じタイミングでこちらにやって来ることがあり、このショーに遭遇すると、私は特別、メジロに歓迎されているのかなと勘違いしてしまいます。


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 梅が終わると、次は桜。京都は桜の名所が多く、楽しめる時期も長い。市内の桜が散り終えた頃、ようやく常照皇寺の桜が咲きます。常照皇寺は京都市の右京区にあるのですが、私が昔、この近くに住んでいた頃は、京都府北桑田郡京北町といいました。同じ京都とはいえ、市内とはかなり気温差があり、冬はドカ雪、春も遅くにやってきます。

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 門前には華やかな、今が盛りの八重紅枝垂れ。静かな山寺の境内では、九重桜、左近の桜、御車返しの桜の三名木が、少しずつ時期をずらして咲いていく。九重桜は現役の二代目の木でさえ、樹齢300年とも400年ともいわれ、その傍らにある親木は、すでに650年を超えているとか。この、老いてもなお、春が来ると律儀に花をつける老木が、一度見たら忘れられない、とても印象的な姿をしているのです。

 どっしりと地面を踏みしめる、ゴツゴツとした二本脚。両脚とも、その膝あたりに大きな穴が開いている。二本の脚は途中でひとつになり、大きくうねって方向を変え、迷っているようにも、苦しんでいるようにも、怒り狂っているようにも見える。何本もの支柱に支えられながら、細雪のような、軽やかな花を咲かせる怪物の木。なんだろう、「がんばれ」と言ってくれる怪物の木。私は狩野山雪が描いた「老梅図襖」が大好きなのですが、山雪がこの木を見たら、きっとものすごい絵を描いたと思います。

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 さて、常照皇寺までは周山街道を通っていくのですが、九重桜が咲くこの時期、高雄のバス停辺りから見える景色が面白い。西明寺の裏山の、三百本余りのミツバツツジが満開になり、山の一面が、すっかりミツバツツジの、あの透明感のある濃淡のピンクで彩られるのです。ところどころ、チラチラと、淡いピンクの山桜、やわらかな黄緑色の新緑。まさに、山笑う。こちらから少し遠くて高いところから「おい、どんなもんだ」と笑っています。


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