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職場でトム・クルーズと“話した”記憶

深夜でも熱気に包まれる映画館


 週末のレイトショーを狙って「トップガン マーヴェリック」を鑑賞してきた。IMAX上映ということもあって、終演が23時過ぎになるにもかかわらず客の入りは8割以上。「トップガン熱」はいまがピークか。

 迫力の映像、IMAXならではの大画面と腹にズシンズシンと響く音響、衰えを感じさせないトム・クルーズの肉体、わかりやすい軍事作戦の説明、ちょっとありえないだろうというラストの展開・・・、感想はいろいろあるが、十分に楽しんだことは間違いない。

トム・クルーズと“話した”記憶


 すっかり記憶の彼方だったが、私はトム・クルーズ本人と“話した”ことがある。

 20年ほど前だったか、何かの作品のキャンペーンで来日していた。ある日、翻訳字幕の大家・T女史と一緒にウチの報道セクションに来たのである。いま思えば、なんでそんな部署を訪れたのか、意味不明だ。

 ちょうど次のニュースに向けたネタ会議をやっていたところだったが、世界の大スターを無視するわけにもいかない。みんなで拍手をしたのではなかったか。トムさまはご機嫌である。ちょうどアメリカではワールドシリーズが展開中で、我々に向かって「ところで、ヤンキースはきょうは勝ったの?」と話しかけてきたのである(咄嗟にT女史が日本語に翻訳)。会議に参加していた一同はちょっと気後れして、沈黙が走る。仕方なく外信部デスクだった私が「負けたよ」と英語で「lose!」か「lost!」と言ったら、「まあ、ジャーナリストの言うことは信用できないからなあ、アハハ」とおっしゃった。これを翻訳したT女史は「って、言ってます、すみません」とフォローしていたが、我々はすっかり毒気を抜かれた気分になったものだ。

 せっかく思い出したのでこのエピソードを家族に披露したところ、カミさんは「それって、話したことになるの?」と小馬鹿にした反応。しかし「トップガン マーヴェリック」に大感動した長男には「もちろん、話したことになるよ!すげえ!」と感心してもらったのである。

やっぱりアメリカやなー


 閑話休題。ここからプチネタバレありの「トップガン マーヴェリック」。

 やっぱり、「アメリカ人による“アメリカ万歳”映画」というノリは前作とまったく変わっていない。

 映画の山場は他国の核処理施設に対する困難な攻撃をどのように成功させるか、というもの。具体的な国名は挙げられていないが、どう見てもイラン。しかし、攻撃に至る経緯は一切描かれていない(当たり前だけど)。「おいおい、真珠湾攻撃でもあるまいし、いきなり他国に奇襲攻撃を仕掛けちゃうのか。ロシアのウクライナ侵攻と同じやんか」という気分だ。

 敵国の戦闘機にも具体的な国名は表示されないし、パイロットのバイザーは終始真っ黒で、表情はまったく見えない。それが次々に撃ち落とされていく。

 20年前に赴任先の東南アジアの映画館で観た「ブラックホーク・ダウン」は、さらにひどかった。次々に襲い掛かってくる敵国兵がバタバタと倒されるさまは、まるでテレビゲームのエイリアンのよう。「ああ、アメリカ人にとって外国兵っていうのはその程度にしか描かれない存在なんだ」と認識した。

 娯楽映画にいちいちツッコミを入れる野暮は承知している。それでも、その違和感が映画世界に没入することを妨げるのも確かだ。

 やっぱりトム・クルーズは、アメリカのエリートパイロットは、カッコいい。でも、それを手放しで礼賛するような日本人ばかりが増えるのは、やめてくれ。
(22/6/14)

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