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Memoirs of Mairoudo

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series/マイロウドの手記 ――〝ここに、私のかけがえのない出会いたちを記す。〟
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#オリジナル

ギフト

ギフト

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 さあ、と風が高みを目指して吹いている。
 木々の枝葉や地面の草花に声をかけ、その幾つかを一緒にいずこかへと連れていく風は、これから最初の羽ばたきを空へと見せつけようとしている小鳥にも同様に吹き抜けていく。さあ。ふと、視線をもう少し上へやってみれば、そこでは雲一つない空の中、数羽の小鳥たちが親鳥と一緒に青の中を柔らかく旋回していた。
 真っ白な花を付けているユキノキの枝に一羽残された小

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アンダイン

アンダイン

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 見上げれば、深い緑の木々たちの間に、強い青が浮かんでいる。
 太陽の光が日に日に眩しさを増す、しるべ風の月はもう、今日で十六日目を迎えていた。
 緑の大陸は広い。自分は未だ心のままに歩を進めるばかりだが、このつま先はどうも、いつも東を目指すことを止められないようだった。緑の大陸は海に囲まれた大陸である。このまま歩き続ければ、いつかは海に辿り着くはずだった。海。なんとなく、思うのだ。海

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ウィッチ

ウィッチ

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 白粉を振りまいたような霧が視界を染めている。
 何処をどう歩いてきたのか、振り返れど目に映るのはくらくらするほどの白。かろうじて足下の土が見える程度の狭い視界で、あっちこっちへ向きを変える自分のつま先を眺め、一度立ち止まる。ああ。心の中だけで絞り出すような溜め息を洩らした。次第にどくどくと、どうにも嫌な音を立てはじめた心臓を宥めるために深く息を吸い、それからゆっくりと吐く。知りたくも

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ビリーブ

ビリーブ

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 ふと足を止めたのは、今日の夕焼けのせいだった。
 この世界に在るすべての橙をすべてかき集め、それを空一面に塗り混ぜたかの如く、ただただ呼吸を忘れるほど美しい、鮮やかな夕焼け。燃えるようなとも、また焦がすようなとも少し違う、しかし確かに瞳へと焼き付いては記憶に色を残す黄昏の空に、自分の足ははたと動かなくなった。動く気を失くしてしまった。
 今日はどう過ごしたかと言えば、それはほとんど屋

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クロック

クロック

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 少しだけ欠けたステンドグラスから、様々な色に彩られた光が落ちてくる。
 それを閉じた瞼の向こう側で感じながらそっと薄目を開ければ、床に薄く広がっている光が視界に移った。大理石の床上に落ちている光たちは、ステンドグラスがもつ七つの色を纏いながらも、しかし自身は未だ夜の白んだ青い色をしているようである。入り込んできているのは、月明かりか星の淡い光なのだろう。肌寒さから指先を擦り合わせた。

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エバ

エバ

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 常磐樹の街。それがこの中央都市の呼び名だった。
 街道を進んでいる途中、青く大きい城の影として街の奥にそびえていたものは、しかして城ではなく、一本の大きく大きな樹であった。いいや、正しくは城ではあるのだが、元々は樹なのだと街の人々は語る。昔、世界で大規模な戦争が起こり、兵力をほとんど持たないこの緑の大陸にも争いの火の粉が燃え移りそうになったとき、当時の王は民を此処——常磐樹の街へと呼

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リピート

リピート

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 ふと目が覚めて、宿の外へと歩を進めた。
 しんと静まり返った大通りを抜け、朝に近い深夜の街を特に当て処もなく歩く。夜と朝のあわい。常磐樹の街には、浅く霧が漂っていた。
 家々は未だ眠りに落ちており、星月と外灯ばかりが道を照らしている。風も吹かず、些細な音は霧が吸い込んでしまうこの夜は、世界から音が消えたかのように静かだった。静寂ばかりが存在を増し、むしろ気持ちが落ち着かない。静けさが

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ホープ

ホープ

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 ほむら葉の月。夜風はもう随分と冷たくなり、目に映る木々の多くはその葉の色を夏の頃とは全く異なる色彩に染め上げていた。春先に揺れていた初々しい薄緑は夏の訪れと共にいつしかくっきりとした深緑へと変わり、今では初秋の淡い黄緑も通り越して、或る葉は優しい橙へ、また或る葉は金のような黄へ、柔らかな桃へ、そして鮮やかな赤色へと移ろっている。
 宿屋の露台から見える、蛍花の町の景色は、しかし夜にな

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ヴォイス

ヴォイス

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 ざあざあと夜が声を上げている。
 わたり空の月、六日。ほむら葉の三十一日に蛍花の町を出てから、何日か野宿が続いていた。話に聞いていた通り、町の近くにはこれと言って村里も見当たらず、看板伝いになんとか辿り着いた旅人用の小屋も一軒目は雨漏りのため修繕中、そこから二日かけて見付けた別の小屋は大所帯の隊商が既に使用中であった。ちなみに、後者の小屋は、自分の荷物すら間借りさせてもらえないほどに

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ナイト

ナイト

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 気が付けば、一年が終わろうとしていた。
 星のぞみの月、二十九日。一年をめぐる十二の月の中で一番最後に数えられるこの月は、一年の内で最も星が美しく望める月だと伝えられているらしく、そんな話もあってか、このところ、人々に交じって自分もまた空を見上げる回数が増えたように思う。
 今、頭上に在る、深い青と光の滲んだ薄紫を湛えたそれは、もうじき昇る太陽を迎える支度をしているようだった。町と名

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ラナー

ラナー

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 真っ赤なポストのてっぺんで、白い鳥が一羽休んでいる。
 そのさまをぼんやりと見つめながら、ゆっくり瞬きをし、それから手の中の封筒を視界に映した。背もたれのない木製の長椅子には、自分以外誰も座る者がおらず、そして、そんな己の足元の周りでは、ポストの上に乗っかっているのと同じ鳥たちが何かをせがむよう、とんとんと短く跳ねている。
 うまれ火の月、二十日。海に隣接する港町までもう少しというと

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クローマ

クローマ

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 目の前に海。
 青く澄んだ冬空の色を写し取る水面は、朝を告げる白い陽光を反射し、波頭を美しく煌めかせている。太陽のまなざしに洗われた透明度の高い海水は、潮の満ち引きを刻々と記す珊瑚礁の姿に諸手を広げ、そのさまを空の主に自慢しているようだった。磨き立てた鏡さながらの海原。足を踏み出せば、今にもその上を歩いて何処までも渡って行けそうだった。高台となっている噴水広場の端で、水平線を眺めなが

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アイノウ

アイノウ

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 汽笛が鳴っている。
 風になびく天鵞絨のように穏やかな海が、それと同じくらい柔らな斜陽によって照らされている。黄昏に翻る波が七色の水しぶきを上げ、停泊する船の足元で砕けていた。ぐるりと世界を巡るあの遊覧船は、夕暮れと共に緑の大陸を旅立つ。きっと、透明度の高いこの海に映る星空は、恐ろしいほどに美しいだろう。太陽はもう、沈もうとしていた。
 港の防波堤には、誰もいない。
 ただ、海の果

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無題

無題

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 だから、やっと。
 やっと、分かった。

20201108 次
シリーズ:『マイロウドの手記』

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