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藤井二冠の名手▲4一銀を冷静に見る
第34期竜王戦2組ランキング戦 ▲藤井聡太二冠ー▽松尾歩八段は75手で藤井聡太二冠が勝利した。世間が騒いでいる▲4一銀が放たれたのは57手目で終盤の勝負所だった。
将棋をしている人には説明不要だが ”終盤は駒の損得より速度” と言われる。日常用語で言えば ”勝利できるなら、惜しみなく大枚をはたいてスピードを買え” と言ったところか。将棋における終盤は相手からの攻めを交わしながら1手でも早く勝利に辿り着くレースになる。そのために重要となってくるのが、①スピードと②手番を握ることだ。
①スピードは勝利への最短ルートを思い描き、実際に盤上で実現することだ。スピードの重要性については以下のNOTEに書いた。
そして、スピードと並ぶほど重要なのが、相手の思い通りにさせないようにする②手番を握る考えだ。
例えるなら、サッカーでボールを支配することに似ている。ボール=手番であって、キープし続ければ機を見て得点できるチャンスが自分にだけある。一方、相手からしたら攻めのターンがやってこないので、そのうち「何もさせてくれない」絶望感が襲いはじめる。攻めに転じるには相手がミスするのをただ待つのではなく、インターセプト(=ボールを奪う)しにいく巧い手が必要だ。これに似た主導権の取り合いが盤上でも繰り広げられている。
王手がその一番分かりやすい例かもしれない。仮に、自分が敵陣で指したい手があったとしよう。でも生憎、手番は相手側にあって王手ラッシュで攻めてきた。そうすると、意に反して駒を取るか玉を逃げるかの2択で対処し続けなければならず、自分の指したい手を一向に指すことができない。このように相手の手に制限を加えながら、自分だけ指したい手を続ける状態をキープする②手番を握ることは終盤の形勢判断で特に重視される。
さて、今回の▲4一銀は冷静に見れば①スピードと②手番を握るを兼ね備えている手なのでその意味が分かれば驚くには値しない。どうして他のプロ棋士をはじめ、世間が騒いでいる理由は「思いついても普通それをやるか?」と驚くレベルで真っ先に候補から外すような手であったことと、飛車を取る手を先送りしつつ銀を相手に渡して損をする不利感の漂う一手だったからだ。少し大げさに言えば、自ら破滅する手にしか見えないのに実はそれがその局面における最善手だった意外性が▲4一銀を名手たらしめているのである。
それもこれも、この後の展開を見通している藤井二冠の先を読む異常なスピードがあってはじめて成立する離れ業だ。毎局それを見せつけられてすっかり感覚が麻痺してしまっているが、相も変わらず感動的だ。遥か先の局面が見えている藤井二冠にとっては論理の牙城の上にある必然の一手なのだろう。「普通はこうでしょう?」と放たれた▲4一銀が語りかけてくるようだ。
神はいる。そう思った。
注:この将棋エッセイは自分(最高棋力アマ五段)が棋譜を拝見して受けた印象と私見です。悪しからず。
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