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一次創作小説倉庫(灰音ハル)

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小説置場です。140字関連、掌編、短編、長編とジャンルばらばら。お好きにお読みください。
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2021年8月の記事一覧

【短編】その晩、冷房が止まった1

【短編】その晩、冷房が止まった1

 その晩、冷房が止まった。

 二十度に設定した冷房から、ドンドンと扉を叩くような音が聞こえた。そして、生温い空気を吐き出す。冷房が壊れたのかと、僕は布団から起き上がった。自動でスライドする筈の羽が、何故か一番上で止まっていた。冷房の端に、まるでミノムシみたいに垂れ下がった、一粒の、水の雫。水漏れだ。タオルで拭かなきゃ。枕に敷いていたタオルを手に、重い腰をあげた。瞬間、冷房から小雨のような、霧のよ

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【短編】無自覚症状ダーリンダーリン2

続きました。BL風味です。

 どうしてこうなったのだろう。と、考えることがある。幼い頃は、考えたこともなかった。僕が、こんなに色々考えるようになったのは、細沢遥と出会ってからだ。彼は、とても難しい。時折、僕は目の前の彼が本当に僕の知っている細沢遥なのかわからなくなることがある。そして、思い直すのだ。いや、元から僕は細沢遥の爪先すら理解していない。見た目も、中身も、動作も、細沢遥という人間自体が、

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【短編】無自覚症状ダーリンダーリン

【短編】無自覚症状ダーリンダーリン

BL風味です。

 はじめて僕が細沢遥と出会ったのは、僕たちが中学二年生、十四歳のときだった。
 細沢遥は、滅多に学校に来ない。黒の頭が並ぶ中で一際目立つ金髪に、耳たぶにぶらさがった貴金属は、俗にいう不良を連想させる。実際に、彼は素行があまりよろしくなかった。授業中もずっと眠っているし、朝にいたかと思えば、午後にはいなくなっていることもある。僕たちは、同じ空間にいる。だけど、誰もが彼の存在をなかっ

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