【広告本読書録:078】あたらしい教科書 広告
天野祐吉 監修 プチグラパブリッシング 刊
教科書、といえば学校のロッカーにいれっぱなしがデフォルトの青春を送ってきたぼくですが、大人になってからおもうのはもっと勉強しとけばなあってこと。いまなら教科書もたのしく読めるんじゃないか。書いてあることの意味もわかるんじゃないか。
振り返る人生って、いいですよね。実に都合よく振り返ることができる。たぶん、現実は、もっと悲惨。っていうかシビア。おそらくいまあらためて教科書を目にしてもすぐに眠りにつくことでしょう。
でもいいの。妄想だけならタダでもできる。いつだって、どこでだって勉強はできる。そう、教科書さえあれば!
そんな意欲だけはたっぷりあるおじさん、おばさんのために生まれた(か、どうかは知らないんですけど)のが、大人のためのファーストブック『あたらしい教科書シリーズ』です。
このシリーズ、意外なことに結構続いているようで、0号の『学び』からはじまり『雑貨』『本』『ことば』など続々と刊行。『結婚』『北欧』『民芸』なんてものから『定番』『コンピュータ』『音楽』なんてのまで。
そして、今回ご紹介するのがシリーズ6に位置する『広告』でございます。
監修は、このテーマならこのヒトをおいて他にはありえない天野祐吉さん。2006年7月29日初版発行となっております。ぼくが本を手に取るときに意識するブックデザインは“SOUP DESIGN inc.”で(すてきです)本書内のイラストを寄藤文平さんが手掛けています。
すぐれた広告はコミュニケーションのお手本になる
さて内容ですが、さすが教科書と銘打つだけのことはあります。浅く広く、これ一冊でだいたいのことはわかる。さすがに14年も前の書物なので、いま見るといささかの古さは否めませんが、それでもいまだに通用する内容も多くみられます。
第一章の『広告の歴史』では広告としてのイエス・キリストからDDBのフォルクスワーゲン、杉山登志を経てパルコや西武百貨店、NIKEまでを駆け足で紹介。時代に寄り添う広告表現の変遷をうかがい知ることができます。
第二章では『広告ができるまで』をイラスト付きでわかりやすく解説。オリエンから企画~打ち合わせ、プレゼンテーション、実制作まで網羅するだけでなく、実制作に関してはCM、グラフィック、ウェブサイト、バナーと種類ごとに分けて紹介しています。これはめっちゃわかりやすい!
さらに第三章は『広告を作る人たち』としてクリエイターはもちろん広告主まで登場しています。クライアント側にまできちんとフォーカスを当てるところがさすが監修天野さん!って感じ。最近あちこちで聞かれるのがクライアント側の宣伝部に昔のようなサムライがいなくなった…というため息ですが、この頃はまだ元気だったのでしょうか。
そして最終章『広告のかたち』では広告表現が乗っかる器として、さまさまなメディアの解説を。テレビ、ラジオ、新聞、雑誌に加えてインターネット、屋外広告、おまけ、イベント、スポーツまで。ありとあらゆるメディアについて当時の考え方が書かれています。
全編を通じて詳細かつ無駄がなく、少ないページ数でよくここまでまとめたものだ、と関心します。そして、どの項目も天野さんのイントロダクションにすべて帰結するように構成されています。
「事実を伝えることば」よりも、むしろ「感情を伝えることば」で人と人はつながっていると言っていいでしょう。「事実を伝えることば」が人と人の“理解の場”をつくり出すのに対して、「感情を伝えることば」は人と人の“共感の土壌”をつくりだす、と言えばいいでしょうか。そういう意味で、すぐれた広告はコミュニケーションのいいお手本になります。広告に強くなれば、それだけ人間関係にも強くなるし、また、だめな広告にだまされないようにもなる。
こんなひとにおすすめ
2006年の出版ですから、いささかの古さは否めません。でも、根っこの部分に関しては大きく変わっていないと思います。読み返したぼくが言うんだから間違いないです。
ここまで網羅されているのは貴重なので、ほんと、すべての広告クリエイターの本棚に一冊置いてあってもよいのですが…あえてバチン!とハマるところを探すとすると、やはりこれから広告の世界に足を踏み入れようとしている学生さん、あるいは社会人経験浅めの第二新卒さんかな。
たぶん、自分の興味のあるページ(クリエイターのインタビュー)しかめくらないかもしれないんですが、悪いことはいわないからがんばって全ページ読んでほしいです。
というのも、読んでいくうちに自分の先入観を変えることができるかもしれないから。
たとえばコピーライターを目指している人がこの本と出会うことで、自分はもしかしたらCMプランナーのほうがあっているかもしれない、とおもうことがあってもおかしくない。
たとえばやっぱいまはネット広告っしょ!とおもい込んでいる人がこの本と出会うことで、いや、いまこそ街メディアが面白いのかも、と気づくことがあってもおかしくない。
たとえば広告ってキラキラしてて華やかで楽しそう、と勘違いしている人がこの本と出会うことで、え?ひょっとして結構しんどいことのほうが多い?と方針転換することがあってもおかしくない。
たとえばオレのアイデアは誰も考えつかない面白いヤツばっかり、と自信満々の人がこの本と出会うことで、とてもじゃないけどこんなスゴイ案を出せっこない、と発見することがあってもおかしくない。
つまりこの、とてもコンパクトで気さくな顔つきをしている一冊の中には、そうだったのか!がいろんな角度でたくさん詰まっているんです。
古本屋さんとかで100円なんかで売ってたら、ぜったいに買いですよ。もしあなたが広告に興味なんかこれっぽっちも…ってタイプでも、買っておいて友人のうち誰かが「広告やりたいんだよね」なんていい出したらスッと差し出してあげてみるといいかも。
それぐらい、広告の平均値が測れる貴重な本。さすが、教科書ですね。