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【広告本読書録:023】ひとつ上のチーム

眞木準 編 インプレスジャパン発行

この書評の【003】で「アイデア」を、【013】で「プレゼン」を紹介させていただいた、ご存知眞木準さんの“ひとつ上”シリーズ。第三弾は「チーム」です。このシリーズ、狙ったわけじゃないのに3回目、13回目、23回目で取り上げることになり、なにか見えない力に導かれているような気がします。

最近は新装版も出てるんですね。

いずれにしても長く読みつがれるべき一冊ですね。で『ひとつ上のチーム』ですが、他の二冊と比べて一点だけ異なるところがあります。『プレゼン』や『アイデア』には広告クリエイター以外の方のインタビューも載っていたのですが『チーム』は広告畑の人だけで構成されているんです。

これはなにか意図があってのことか。建築家やイベント関係の仕事でもチームワークであることには変わりないのに。刊行順でいうと『チーム』が最後なので、前二作が結構売れて、だったら俺も、と重い腰を上げた広告マンがいるのか?なーんて勘ぐったりするのは秋の夜長にぴったりな遊びです。

まあ、前二作の読者アンケートとか書評などに、広告以外に拡げないほうがいいというような指摘があったのかもしれませんね。確かに、ちょっと拡散してしまいますからね。そういうこともあってこの『チーム』、三部作の中でいちばんまとまりのある一冊になっています。

広告制作におけるチームワーク

たとえばぼくはコピーライターなんですが、ぼくがどれだけ名コピーを書いたとしても、それだけでは世の中に出ることはありません。ぼくが書いたコピーをデザイナーが書体や大きさを考えて、レイアウトし、はじめて印刷物やらWeb上でお目見えすることになります。

なので、広告制作における最小単位はコピーライターとデザイナーの2名ということになります。つまり広告制作とはチームワークである、と間違いなく断言できます。

でも、クリエイティブの作業自体はあくまで個で進めていくものだから、個とチームがいいパワーバランスでつながれることが大事なんじゃないか。チームワークというとつい、周囲の雰囲気にあわせて自我は抑えめで、和を乱さないことを尊ぶと考えられがちですが、こと広告ではそれではだめで、尖ったクリエイターという個がいくつも集まってひとつの方向に向けて力をあわせる、という実は超高度なチームプレイが求められるのかもしれません。

眞木準さんもそのことについて冒頭で以下のように触れています。

チームは組織であるが、没個性ではない。個性に重きを置くが、個人のものではない。チームは個を生かし、組織も活かすものでなければならないと私は思う。そして先にも述べたとおり、この種のチームについては広告界に一日の長がある。

この本が広告クリエイターのみで構成された組織論である理由は、あんがいこのあたりにあるかもしれませんね。

単純なチームの話だけでなく

ここでちょっと持論をご開陳してくださるクリエイターを紹介しますね。なんたって『チーム』ですから。

一倉宏、岩崎俊一、大島征夫、岡康道、小沢正光、葛西薫、児島令子、佐々木宏、柴田常文、杉山恒太郎、副田高行、谷山雅計、永井一史、中島信也、中村禎、前田知己、山本幸司、山本高史(敬称略)

そうそうたるメンツですね。そして組織論がテーマだからでしょうか、フリーランスは6人しかいません。

でも考えてみると、組織で動くクリエイターよりもフリーのほうが会社の壁もなくさまざまな人とタッグを組みやすいんじゃないかとおもうんですよ。どうしてもDであるとかHだとか、もっといえばその中にもハバツみたいなものがあってもおかしくない。

幸い、ぼくは大きな組織にはいましたが、クリエイターとしてはピンで完結する仕事だったので、チームワークで悩まされたり悩んだりという経験はしてこなかったんですけどね。いや、これは幸いではないか。災いか。

話を戻すと、この本には組織論、チームの活かし方、ディレクター論みたいなものがぎっしり詰まっているのですが、それ以外にも「おおっ!」と目が丸くなるような裏話が載っていたりします。それがかなり面白い。

たとえば葛西薫さんの『サントリーウーロン茶』TVCF「いつでも夢を」編。中国人の農民の夫婦が二人でサントリーのウーロン茶を手に持って「いつでも夢を」をデュエットするあのコマーシャル、覚えている人も多いのではないでしょうか。

あれ、最初はフォスターの「ビューティフルドリーマー」だったんですって。そうしたらクライアントからしんみりとしてるからもう少し面白くしてほしいという要望がきた。そこで思いついたのが橋幸夫と吉永小百合のかの曲でした。でも葛西さんはぜんぜん自信持てなかったんですって。フォスターならしっとりした美しいものになる、と確信持てたんですが、果たして日本の歌謡曲で奇妙なことになるのでは…と。

しかしそれは単なる杞憂に終わり、オンエア後ものすごく反響が大きく、いわゆるヒットCMになったとのことでした。で、これだけでもまあまあなネタですが、実はもうひとつあって。

撮影当日、出演者のモデルの女の子が音痴だったんですって。でも現場ではまずいなという顔をするわけにはいきませんよね。で、とりあえず黙ってたら音楽担当のスタッフが「いいよ、とてもいい」って笑顔で言ったんです。あとで聞いたらその人も最悪だと思ったそうですが、もしその場で「よくない」なんていい出したら、スタッフもモデルも萎縮しちゃって良い映像が撮れなくなります。そう考えた彼は、唄は日本に戻ってから別の中国の女の子に歌わせたものと差し替えようと決めて、気を利かせたとのこと。

なんてファインプレーなんでしょう!そう思いません?このスタッフの判断と行動はまさにプロフェッショナル。やはり広告の仕事ってコピーがうまいとかデザインがーっていうものの他に、現場での機転、そしてその機転を育む人柄の良さがモノをいうんですね。

もちろんチームワークのテクニック、満載

そんな業界裏話もありつつ、やはりこの本の特徴はチームビルディングやブレストでのモチベーションアップメソッドにあります。

ひとそれぞれアプローチは異なるんですが、いくつか共通項があります。抜き出してみると…

◎基本は楽しくやるに尽きる

◎ミーティングは自然体、かつ、やや盛り上げる方向で

◎緊張や恐怖心が生まれないように気をつける

◎理想、志、ゴールを共有し、一致させること

◎チームメイトお互いが想像を超えたものを期待しあう

まだまだ他にもありますが、こうやって代表的なものを並べてみるだけでも、いわゆる一般的なビジネスのチームワーク、あるいはブレストなどに応用できそうなキーワードが揃っていることがわかります。

その中でも特に個人的に刺さった3名の方の「やり方」を紹介します。

柴田常文さんの「だったらさ」な打ち合わせ

柴田常文さんは博報堂で長らくCDをやられていて、その後独立され、こんどこの書評でも取り上げる予定の雑誌『クリネタ』編集団員などなど八面六臂のご活躍をされていました。残念なことに今年5月にお亡くなりになってしまったのですが、その柴田さんは「こんな打ち合わせが理想」といいます。

打ち合わせの目標は「だったらさ」という言葉が飛び交う場をつくることです。あるスタッフが「こういうことを考えたんだけど」とアイデアは提案する。すると、それを受けて別のスタッフが「だったらさ、こうしてみたらどうだろう」と新しい提案をする。そこに別のスタッフが「だったらさ」とまた口を挟む…。

「だったらさ」という枕詞が出はじめれば、つぎつぎと新しい企画が生まれ、アイディアにアイディアがプラスされていく、と柴田さんはおっしゃいます。この感じ、なんとなくわかりますね。ぼくが長い間携わっていた求人メディアの現場では営業とコピーライターの二人で打ち合わせをしていたのですが、良い営業かダメな営業かをわかつのはここだとおもっていました。

つまり、職能がなんだろうが、どっちかがアイディアを出す。そのアイディアをベースにさらにアイディアを発展させる。営業とコピーライターがアイディアの出し合いをすることで、よりよい求人広告に仕上がっていくのです。逆に「おまかせします」とか「ぼくは営業なので…」と情報を一方的にもってくるだけの営業はダメです。

これ、ただ単に本人にやる気がないだけなら無視しとけばいいのでマシなんですが、たちが悪いのが上司や先輩から教えられたか何かで、そういうもんだと思いこんでいる営業マン。営業の仕事は大量に情報を収集してきて制作に投げる仕事だと頑なに信じていると、もう処置なしです。だってその教えを下についた部下に伝播していくわけだからね。教育ってだいじ。

児島令子さんの「相手を支配しないで見守る」

児島令子さんといえば女性コピーライターの中でも突出した個性と実績をお持ちのスターですよね。ぼくも個人的に大好きなコピーがいっぱいあって、例のペットのコピーもそうなんですが、一番好きなのは「別ヨ。」です。あれは笑った。ひざを打ちました。

そんな児島さん、コピーライターとしてデビュー1年でいきなり独立されています。それ以来ずっとフリーランス。これはあなた、なかなかできないことですよ。女性版・糸井重里ですよね。糸井さんの場合は会社がなくなっちゃったんだけど。やはり児島さん、ただ者じゃないですね。

児島さんの広告作法はいろんなところでご開陳されているのですが、根底に流れているのは「自分が自分らしく、楽しく書けることが一番大事」でしょう。言うのは簡単ですがやるのはたやすくない哲学です。それで仕事として成立させるには、よっぽど自分を磨いておかないと、ですからね。

でも、昔はデザイナーに対して、どちらかというと“支配”する感じだったそうです。

「自分が考えたコピーだから、自分のイメージどおりにデザインしてほしい」という思いが高じて、相手のデザインを思いどおりにコントロールしようとしたのですが、あるとき、そういうやり方はやめようと思い立ちました。“大人”になったのです。

いくら正しいと信じているものでも、自分が「こうだ」と思っているものは、自分の頭のなかの範囲内のもの。そこにこだわればこだわるほど、それ以上のものは出てこないから、と児島さん。いまではすっかり、相手のプロとしてのスキルを上手に活用させてもらうようにしているんだそうです。

とはいえ、ここだけは譲れない、というところもあるようで。加減は難しいなかで支配はせず、いいたいことは言うスタンスを確立しているとのこと。

これ、ひとつには相手を信じる、信頼とかリスペクトとかが必要なことですよね。それを“大人”という言葉でコーティングする児島さん、やっぱり素敵です。

ぼくもいまの会社に入ってしばらくはコピーライターがコンセプトを立てて、デザイナーに渡したら、そのコンセプトをいかに表現しているかを厳しくチェックするスタイルにこだわっていました。

でも、ウチの会社のADやDのスタイルは違っていました。先にデザインやレイアウトがあって(もちろんコンセプトはありきですが)そこにコピーを置いていくやり方だったのです。

最初はとても違和感がありましたし、変えてやろうとも思いました。しかしいまではすっかりそのやり方に従っています。もしかしたら一番いいやり方かも、とすら思えるようになりました。

それは、お互いの間に信頼が生まれたからだと思います。きっかけは、あるときレイアウトがやってきて、そこにぼくがコピーを載せたら、完成したものが全然違うデザインになっていた。そしてそのデザインはぼくのコピーが最も引き立つようにアレンジされていたのです。

それ以来、どーんと大船に乗ったつもりで仕事しています。精神衛生上もとても良いです。

山本幸司さんの悩ましいスタッフィング

山本幸司さんは柴田さん同様、博報堂で名作をたくさん生み出してきたCDです。そんな山本さんのお悩みを読んだとき、ぼくはちょっぴり「やはりそうか…そうなのか…」と膝から落ちかけたものです。それは・・・

スタッフの起用にあたっては、じつは悩ましい問題があります。それはクリエイターの人柄です。とくに広告の世界には優秀だけども人づきあいが苦手、組織としての活動がうまくできないといった人が多くいます。むしろ優秀な人ほど、使いづらい人であることが多いぐらいです。

ああ、また出た…優秀なクリエイター=エッジ効いてる説。これはやはり本当なんでしょうかね。これが出るたびに、至極まっとうな良識人たるぼくは「だからぼくはダメなクリエイターなのかな」「ちゃんとしてて優秀なクリエイターっていないのかな」と思い悩むことになります。

だから『コピーライティングとアイディアの発想法』という本で渡辺潤平さんがものすごくまっとうな、常識的といってもいい仕事への取り組み方をご開陳されていて、嬉しかったです。

でも、もしかしたらやっぱりそうなのかもしれないですね。よく思い返してみると、商品広告やってたときにぼくの周りにいた人たちって、みんなどこか欠落しているというか、変わり者が多かったような気がしてきました。

逆に30過ぎで戻った求人広告の世界は、相手が人事ということだったり採用が経営と直結していることもあり、まず常識人であることを求められました。きちんと時間どおりに打ち合わせに来ること。きちんとスーツを着て客先を訪問すること。きちんと締め切りを守ること。しかも打ち合わせや取材から提出までは1日半ぐらいしかない。そんな中でエッジの効いた人は淘汰されていくわけです。

求人広告のクリエイターは、ビジネスパーソンであることを強く要求されるんです。そこをまぜこぜにしてはいけないんだなあ、とあらためておもった次第です。

その人なりの花をどうやって咲かせるか

最後に、電通の役員からライトパブリシティの代表へ華麗なるコンバートを果たした杉山恒太郎さんの頁から、チームを率いる者としての覚悟、のようなものを引用したいとおもいます。

要するに、チームのスタッフを導くということは、いかに我慢して見守り、許容してあげられるか、ということです。
「若い人にはみんな天使のような羽が生えていて、指導する立場にある人の無神経なたったひとことで、それを簡単に切り取ってしまうことができる。でも、羽は二度と生えてこない」という主旨のことを、かつて小田桐昭さんがいっておられましたが、まったくそのとおりだと思います。
ただし、そこにあるのは親切心だけではありません。
その人が育ってくれて、役に立つ人材になってくれれば、自分自身が楽になるという思いも少なからずあります。
ぼくの場合は羽ではなく「人には必ずその人なりの花がある」というイメージをもっているのですが、紅く咲く花もあれば、青く咲く花もあるわけです。その花をどうやって咲かせてあげるのか。

まさに、クリエイティブであろうがなかろうが、メンバーを持った者が心得るべきテーマではないでしょうか。

(おしまい)

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